◆たぬき地蔵のおはなし

むかしむかし

ポンポコ山にポン吉と言うタヌキが棲んでいました。
ポン吉はとてもいたづら好きで、街道にでてはいつも人間を
驚かしたりダマしたりしていました。

ある日のこと、ポン吉は一本松のある峠にやってきました。
すると そこにはお地蔵様があって、なにやらお供えをしてる人がいます。
ポン吉は草むらからその様子をじっと見ていました。

人間が去ったあと、そのお地蔵様のところに行くと、そこには
美味しそうなお菓子がおいてありました。
ポン吉はそれをパっと口の中にほうり込みました。
「うめえ!こんなうめえもん食ったことがねえ。」
「お地蔵様はこんなうめえもんくうとるのか。よっしゃそれじゃあ
オラがお地蔵様になって、いっぺえうまいもんくうたろ。」

ポン吉はそのお地蔵様を近くの川にすててしまい、
自分がお地蔵様にバケてしまいました。
そしてそのお地蔵様がおった場所になにくわぬ顔でチョコンとたちました。

どのくらいたったことでしょう。いいかげん待ちくたびれたから、やっぱり
やめようとした時です。村の方から、一人の男の人がやってきました。
どうやらこれから遠くへ旅に出る様子です。
男の人はお地蔵様の傍にきて、「お地蔵様、どうぞ道中が無事に過ごせます
ように。」とお願いをしました。そして道中で食べようとしたおにぎりの一つを
お供えをして、旅に出ていきました。

ポン吉はお腹がグっとなるのをがまんをしていました。男の人の姿がみえなく
なるやいなや、元のタヌキの姿に戻り、「やあ これはおいしそうなおにぎりだ。
うまくいったぞ、うまくいったぞ。」
といってむしゃむしゃとおにぎりを食べてしまいました。
「こんなええことはない。いっぺんやったらやめられないな。」
「もうちょっとなんかくいてえな。早くだれかこないかな。」
そう言いながら、キョロキョロしていると、峠の下のほうから、おばあさんが
やってきます。ポン吉はまたお地蔵様にバケました。

おばあさんは杖をつき、「えいこらしょ。」と言いながら、
お地蔵様の傍までやってきました。
「ああ、やっとこさここまで登ってこれたわい。あとすこしじゃが、
のどがかわいた。お地蔵様のそばで、ミカンでも食べて一休みじゃ。」
こういいながらおばあさんは、お地蔵様の傍に腰をおろし、
懐からミカンを取り出しました。そうしておいしそうに食べ始めました。
ポン吉はそれを見ていて、喉がゴクゴクといい始めました。
ミカンを食べをわったおばあさんは、「よっこらっしょっと。」と言って立ち上がり、
「お地蔵様も一つ食べなさるかね。」「おひとつどうぞ。」
おばあさんは、ミカンをおいて、村の方に「えいこらしょ。」といいながら歩いて
いきました。

「やったやった。うまくいったぞ。」
ポン吉は大喜びです。甘くておいしそうなミカンをペロリとたべてしまいました。
「よおし、お腹がすいたらこうすればええんじゃ。」
おなかがいっぱいになったポン吉は、もちまえのいたづら心が出てきました。
「おなかも一杯になったし、よおし今度は人間どもをおどろかしてやろ。」
ポン吉はまたお地蔵様にバケました。そして知らぬ顔をしてたっていますと、
峠のしたのほうから男の人がやってきます。それを横目でみていますと、
その人はペコリと頭をさげて通り過ぎようとしました。
これではおどろかそうと待っていたかいがありません。
ポン吉は大きな声でその男の人に言いました。
「まてまてまてえ。」

おとこのひとは驚いて立ち止まりました。
あたりをキョロキョロみまわしていると、
お地蔵様が突然!
「なにかお供えをしろ!。」といったとみるや、それは大きな鬼になりました。
男の人は急にあらわれた鬼にびっくりして、「ひえ~~~~。」と村のほうに
逃げていきました。

ポン吉は元のタヌキに戻って思いっきり笑いました。
あまりの男の人の驚きようがおかしかったからです。
お腹をかかえてワハハと笑っていると、村のほうから誰やら又来ます。
「よおし!もう一度おどろかしてやろっと。」
ポン吉はまたお地蔵様にバケました。

やってきたのは和尚様でした。その後にはさっきの男の人がいました。
男の人は和尚様の背中から、お地蔵様のほうを指差していいました。
「和尚様。あのお地藏様は本当は鬼です。
もう少しで私は食べられるところでした。お願いです退治してください。」
そう言って男の人は村へ逃げ帰りました。

和尚様はお地蔵様の傍まできてじろじろと見回しました。
ポン吉はばれてしまうのが恐ろしくてじっとしていました。
和尚様はそのお地蔵様をみて一目でタヌキがバケていると見破りましたが、
少しばかり懲らしめてやろうと思い、
「どれどれ、ちょっとかわったお地蔵様じゃ。
本当のお地蔵様か調べることにしよう。」
「私がお経を唱えると本当のお地蔵様ならシッポが出てくるはずじゃ。」
そういって和尚様がお経を唱えるふりをすると、ポン吉はこれは大変と思い、
思わずシッポを出してしまったのです。

和尚様はしてやったりと思いましたが、さらにこう言いました。
「どうやら本当のお地蔵様のようじゃ。だが今一度確かめてみようかの。
本当のお地蔵様なら私がお経を唱えて、
{えっへん}と言うと{おっほん}というはずじゃ。」
ポン吉はここでバレたら一大事と思い、
和尚様がお経を唱えるのを必死で聞いていましたので、
ついついバケていることを忘れてしまいましたからタヌキにもどってしまいました。

「えっへん!」
和尚様はおおきな声でいいました。ポン吉はあわてて答えました。
「おっほん!」
ポン吉は和尚様と同じくらいの大きな声でいいました。
その拍子に頭の上にのせていた木の葉はヒラリと下に落ちました。

「ははは いたづらタヌキめ。」
和尚様は今度は本当にお経を唱えました。
すると、ポン吉の体はピクリとも動かなくなりました。
バレてしまって逃げようとするのですが、ぜんぜん体がいうことを聞きません。
「いたづらタヌキよ、お前は本当のお地蔵様になってしまったぞよ。
わははははどうじゃ動けまい。
お前が今まで悪さをしてきただけ、いい行いをしたら 解いてしんぜよう。
よいな、ははははは。」
和尚様はそう言って立ち去ってしまいました。

ポン吉は困ってしまいました。自分の体がぜんぜん動きません。
「ああ困った。どうしよう。このままでは 本当にお地蔵様にされてしまう。」
「それに このままだと人間にタヌキだとわかってしまう。和尚様はいい行いを
したら戻してくれるって言ったけど、どうすればええのかの。」
「ああ こんな悪さをしなければよかった。」
ポン吉は今までしてきたことを後悔しました。

こうしてポン吉は夜を迎えました。
松の木の枝の間からお月様が、顔を出しました。
ポン吉はお月様に向かって尋ねました。
「お月様おらどうすればええんじゃ?教えてくれ。」
でもお月様は何も言いません。ただ黙ってみているだけでした。

{うぇ~~ん、うぇ~~ん}

何処からか赤ん坊の泣き声が聞こえました。
その声はだんだんとこっちに近づいてきます。
村の方から一人のおばさんが、赤ん坊を背中におぶってこっちにやってきます。
「困ったねえ、ちっとも泣き止んでくれないね。おおよしよし。
お地蔵様どうかこの子が泣かないようにして下さい。」
おばさんはポン吉いえ、お地蔵様にこう言いました。
どうやら本当のお地蔵様にみえるみたいです。
ポン吉は少しは安心しました。
それに 余りにもその赤ん坊が可愛かったので、おもわずベロベロバーっと
大きな舌を出しました。

それをみた赤ん坊は大きな声で「キャッキャ。」と笑いました。
これにはおばさんもびっくり、
「あれ!この子が泣き止んだ。そればかりか笑い始めた。
お地蔵様さっそくおらのお願いをきいてくれてありがとうございました。」
おばさんは喜んで家のほうに帰っていきました。

ポン吉もなんだかホっとしました。
これを見ていたお月様が言いました。

{いいこと 一つ よかったね。}

つぎの日は、朝からくもっていました。
雲が次々と流れていきます。
ポン吉は動くに動けず、お地蔵様の姿のままでじっとしています。
「お~い雲よおらをたすけてくれ。」
でも雲はなにもいわず次々と流れていきます。
しばらくして、今度は黒い雲が流れてきたかとおもうと、
ピカピカピカゴロゴロゴロ!
カミナリが鳴りはじめました。そして雨がザア~っと降り始めました。
「こまったな ずぶぬれになってしまう。でも動けないし、困ったな。」
ポン吉は泣き出したくなりました。

そんな中を一人の男の人が通りかかりました。雨が降り出してずぶぬれです。
ゴホンゴホンとせきをしながら「こまったなあ。」と言いました。
ポン吉はかわいそうになって、「この笠をかぶっていきなさい。」
と言ってしまいました。
男の人はちょっとびっくりしましたが、
よく見るとお地蔵様の頭に笠があったのでそれを自分の頭にかぶり、
「お地蔵様ほんの少しお借りします。後で必ずお返しにあがります。」
そういって雨の中をかけぬけて行きました。

いつしか雨も通り過ぎていきました。先ほどの雲が言いました。

{いいこと 一つ よかったね}

雲が去り、いつしかお日様が出てきました。
ポン吉は少しばかり暖かくなりました。そう 体も心も・・・・
でもやっぱりお地蔵様のままです。
「お~い お日様よ~。」
ポン吉はお日様に向かって言いました。
「おら 早くもとの姿にもどりたいよ~。」
でも お日様はなにも言いません。

「きゃあ~~~っつ。」

峠の下のほうで叫び声が聞こえました。
ポン吉は何事かと思いそのほうを見ようとしましたが、
体が言うことをきいてくれません。仕方なくじっとしていると、
女の人が走ってきてポン吉の後に隠れました。
「お地蔵様、助けてください。犬が追いかけてきます。お願いです。」

ワンワンワン 
犬がポン吉の前まで来ました。
実はポン吉も犬は大嫌いです。逃げ出したいのですが、逃げれません。
{鬼になっておどろかせたらなあ}と思いました。すると!
ポン吉のいえ、お地蔵様の後からこわ~い鬼が現れて、
「ゴオオオオオオ・・・・・」
それを見た犬はびっくりして、キャンキャンと鳴いて逃げていってしまいました。

「お地蔵様、ありがとう、ありがとう。」
女の人はお地蔵様に何度も頭をさげ、村へと帰っていきました。

これを見ていたお日様が言いました。

{いいこと ひとつ よかったね}
{まもなく、まもなく いいこといっぱい}

暖かいお日様の光の中で、ポン吉はうとうと うたたねをしていました。
と、 なにやら村の方向から人間たちのこえが聞こえます。そしてそれは
だんだんこっちに近づいてきます。ポン吉はあわてました。
逃げようとしたのですが、お地蔵様にされていることに気が付きました。
「ああ もうだめじゃ。村の人たちがおらをやつけにくるんじゃ。
うえ~~~ん。もうだめじゃ お日様助けてくんろ。」
必死になってお日様にたのみましたが、お日様は知らんふり・・・・

村の人たちが次々とお地蔵様の前にやってきました。
「お地蔵様、夕べはほんとに有難うございました。
お陰で赤ん坊も泣かなくなりました。お地蔵様、これはほんのお礼です。」
それは 夕べ子供を背中におぶっていた あのおばさんでした。

「お地蔵様、先ほどは笠をありがとうございました。お返しに参りました。」
こう言ったのは、先ほどの男の人でした。男の人は、笠をポン吉の頭にしっかりと
かぶせて言いました。「これはほんの気持ちです。」

「お地蔵様、もう犬は来ないね。本当に危ないところありがとうございました。」
よく見ると、先ほど助けた女の人です。
村の人たちも「ありがたや、ありがたや。」と言いながら、お地蔵様の前に
お菓子やら、ミカンやらを一杯供えました。
そして、「これからもどうぞお助けください。」と言って村へ帰っていきました。

ポン吉はとっても幸せな気持ちでした。
今まで、人を驚かせていたときは、いつもビクビクしていましたが、今は違います。
ポン吉はこのままお地蔵様でもいいやと思っていました。
そこへ、隣村の法事の用が済んだ和尚様が戻ってきました。
「ほほう、タヌキよ お前は随分の良い行いをしたみたいじゃな。
ようし 元にもどしてあげよう。」

和尚様はお経を唱えました。
すると、今まで動くに動けなかった体がスっと動くようになりました。
「和尚様 ありがとう。 もうぜったい悪さをしないよ。」
「そうかそうか よくわかっただろう。 
いい事をすれば その分自分のところに戻ってくるんじゃな。
よしよし、そのお供えはお前のものじゃ それをもって山に帰るがよい。」
和尚様はニコニコ顔でポン吉に言いました。
「和尚様 ありがとう。 もうぜったいいたづらはしないよ。ありがとう。」
こう言って、ポン吉は山へ帰っていきました。

おしまい