みちくさ(気の向くままに)

「XOOPSから」

今まではXOOPSを使っていたが、WORDPRESS も少し気になっていて一度触ってみることにしました。大分使い勝手が違う気がします。なれの問題もあるかな。ここでは色々自分自身が気になったことなどを思いつくまま書き込んでいきたいと思います。

「思い通りいかない」

なにせ自分の思い通りにならないこのwordpress でもきっと使いこなせる日が来ることを信じていこう。いままで、xoopsサイトで書き込んできたものをコピーしてこっちに持ってこようと思う。日時とかの変更はめんどくさいので、コピー日付になることをご容赦ください。手始めというと変だけど丁度一年前の事柄からこぴーしてきます。

 

「大動脈解離」

2023年2月23日,急に胸の痛みと手足のしびれがおき、急遽家内に電話をかけたところまでは意識がありましたが、それ以降は3月3日までサンズの川を行き来していたみたいです。

無事に3月15日に退院してきました。
当初は中部国際医療センターに救急搬送されたみたいですが、そこを経由して春日井の徳洲会総合病院に搬送され、6時間のオペとICUでの集中治療に当たっていましたが、幸いなことに後遺症もなく(半身不随とか人工口透析とか脳機能障がいとか・・・)思いのほか経過も順調でわずか20日くらいで退院できました。

経過観察の為今後も春日井に行くことになりますが、一部の観察は国際中央医療センターで見てもらえるよう手配していただけました。
それでも月になんやかんやで3~4回は通うことになりそうです。
車の運転は差し止められていますので、
家族に協力してもらって通院しているような状況です。

サンズの川を行き来しているときのことです。
気がついて目を開けると最初に見たものは病院の天井でした。
そこには魑魅魍魎がぐじゃぐじゃいて、目をつむると灼熱地獄が開いていました。
私は喉が渇いていて、「のどが渇いた。水がほしい。水をくれ!・・・」と叫んでいました。
でも、その時はまだ誤飲を避けるために、水をもらえる状況かではなかったのです。

何度も水が欲しいと騒いでいる私を見かねてか、一人の男性看護師がやってきて、口の中を濡れた歯ブラシで拭いてくれ、最後に少し水が含まれた歯ブラシを
口の中に入れてくれました。
私のその時の気持ちはまるで地獄で仏に会ったような気持ちでした。

「今日は何日かわかりますか?」と尋ねてきましたので、私は首を振ると、
「今日は3月3日のひなまつりの日ですよ。河合さんは8日間も夢の中でしたよ。
よくここまで頑張りましたね。もう少し我慢してくださいネ。あと少しです頑張りましょう!」と声をかけてくれました。

その時、私は{ああ、私は生かされたんだ。この救われた命を大切にして今後を頑張って生きていこう!}と思いました。
病名を訪ねると・・「貴方は急性大動脈瘤解離でしたヨ」と話してくれました。

3月15日に退院するまで、主治医の先生他、ICUで働いている看護師さんも
本当によくしていただきました。

改めて、生かして頂きありがとうございました。御礼申し上げます。
今後は、大好きなボウリングができるよう、リハビリに努め一日も早く復帰したいです。

本当にありがとうございました。

2月26日丁度1年過になります。徳洲会病院で検査をしてきました。おかげさまで何も異常がなく、次回検査は1年後となりました。今は車の運転もOKとなっていて、ようやく以前の状態になりつつあります。

心電図:心臓エコー:CT検査ともに問題はないそうです。

カルネアデスの板

カルネアデスの板]というのを知っていますか?
これは、古代ギリシアの哲学者、カルネアデス(Carneades)が出した問題といわれています。
「カルネアデスの舟板」ともいうらしい。紀元前2世紀のギリシアで、船が難破し、乗組員は全員海に投げ出された。ある男が命からがら、一片の板切れにつかまったが、そこへもう一人、同じ板に掴まろうとする者が現れた。
しかし、二人も掴まれば「板が沈んでしまう」と考えたその男は、
後から来た者を突き飛ばして、おぼれさせてしまった。男は助かり、
この事で裁判にかけられたが、罪には問われなかった。

トリアージ

カルネアデスの板の続き
トリアージ という言葉をしっていますか?
傷病者が圧倒的多数の場合は、できる限り多くの人命を救助するため、
処置を実施しても救命の見込みが無い傷病者は切り捨てる、すなわち見殺しにせざるを得ないという現実的な側面があります。
この「切迫した非常事態のため、ある程度の見殺しはやむを得ない」という前提が存在する事で、初めてトリアージはその意味を持ちます。また、負傷による苦痛について、訴える体力・能力を喪失している重傷者よりも軽傷者の方が訴え自体は激しいため、重傷度の迅速な判定が重要となります。

救急救命士は、死亡診断の出来ない(=判定を下す事が許されない)トリアージで「黒」を付ける決断が難しい、心理的な負担が医療関係者以上に大きい等の問題があります。しかしながら、ある一定の訓練を受けたものならばその判断に誤差が出ることはない。むしろ日々救命の現場で働く看護師や救命士の方が訓練を受けていない医師よりも迅速・確実な判断ができる事は明らかであるが、
絶対的劣勢の災害現場では「黒」はすなわち「死亡」として切り捨てる判断に実質上なりえる事は否めないと考えます。

NPOナイスデイなかま

私が所属しているNPOのナイスデイなかまは、
障がい児・者のための就労支援をするグループです。
以前はNPO法人として活動していましたが、理事長の死去に伴い、法人格をなくし、現在はグループとして活動しています。
事業として、雨漏りストップ材製造及び販売を手掛けていましたが、
今回新しくキクイモの販売事業も開始しました。
キクイモの主成分は多糖類イヌリンを含む食物繊維で、生の菊芋には13 – 20 %のイヌリンが含まれています。
通常の芋類と異なり、デンプンはほとんど含まれていません。
イヌリンは砂糖や他の炭水化物と比較して3分の1から4分の1程度のエネルギーしか含まず、脂肪と比べて6分の1から9分の1程度のエネルギーしか含みません。
さらに、カルシウムの吸収を促進し、おそらくはマグネシウムの吸収も促進します。また、腸におけるバクテリアの活動を増進させます。
血糖値異常に起因する疾病に対しての有効な食事療法の手段として期待されています。興味がおありの方は以下のURLから入って見てみてください。
http://npo-work.com/

エレクトーン

最近は新型コロナウィルス感染の影響で、仕事が少なくなり時間を持て余すようになり、と言って、製作活動をするには作業場が暑くて思うように進まない・・・・
その為自然と冷房の利くレッスン室に向かうことになる。
ある程度楽譜は読めるけれど楽譜通りにはなかなか弾きこなすことができないので、どうしても我流の域を超えることはできない。
そんな中で演奏した曲を思い切って載せることにしました。
動画では恥ずかしいので、音源のみです。ジャンルはバラバラ気の向くままです。
お聞きいただければ幸いです。

でき次第順次アップしていこうと思います。

 

およよ

およおよよ・・・・大分と形にはなってきたけど、まだ思うようなものにはならない。本当に情けない。この年になると今開いたページのことをすぐ忘れてしまう。でも一つ発見した。どうやらゲーム形式で作った物語が移植できそうな気配・・・・なんとか頑張ろう!

ポンポコ島伝説

ポンポコ島伝説弐もロールプレインゲームてきに作り上げたのだが、今度はBGMがならない。MIDファイルがならないので変換をしなくてはならない。とても大変だ。でもやるしかないか。

◆狸の童のおはなし

むかしむかし
ある山の奥深くのちいさな村にとてもなかのいい 
じっさまとばっさまが住んでいました。

そとは夕暮れ・・木枯らしがピープーふいています。
「さあむい寒いお外は寒い、はあやく縄なってしまおかの。」
じっさまは歌いながら土間でなわを綯っています。
ばっさまはというと あがりはなのイロリでなにやら煮ています。
「じっさまじっさま もうじっき オナベがグツグツにえますよ。
はあやく なわなってしまやんせ。はあやく しまいにしやしゃんせ。」
ばっさまも同じように歌ってじっさまに話しました。
そして 二人で顔を見合わせ、ハハハ ホホホと笑いました。

トントントン

外で誰かが戸をたたきました。
「おんや こんな夕さ(夕方)にだれかいな。」
じっさまは縄をなう手を休めて言いました。
冬の夜は早く来ます。もう外は真っ暗になっていることでしよう。
「さあて じっさまちょこっと見ておいでな。」
ばっさまはじっさまに言いました。
「そんじゃあ。」といってじっさまは入り口の戸のところに行きました。

「もうし 外の人 こんな夜中になんじゃいな?」
じっさまは戸ごしに 聞きました。
「おら タヌキじゃなかったポンタじゃ。 
道に迷ってしまったけん一晩泊めてくんろ。」
外からは子供のこえで返事が返ってきました。
「道に迷うたちゅうて、こんな夜更けに童(わらし)がどこさ行くつもりじゃ?
さては キツネかタヌキかそれとも何ぞバケているんとちがうか?」
じっさまは そういって戸を開けようとしませんでした。
ばっさまが傍まできて言いました。
「じっさま ええじゃねんか キツネでもタヌキでも、こんな寒い夜じゃ
一晩くれえなら泊めてやりんしゃい。」
じっさまは 戸を少しだけあけました。
そこには寒さでふるえている 一人の子供がたっていました。
木枯らしがふいて、こなゆきもちらちら舞っています。
「こりゃこりゃ 寒かったじゃろ。はよう中にはいりんしゃい。」
じっさまは 思い切り戸をあけました。
ピュー 風が家の内中を飛びまわりました。

「さあさ イロリのそばへ来い。」
ばっさまは 童にそう言って イロリのそばへ連れて行きました。
「あったけえ あったけえ。」
童は手をイロリの火にかざして言いました。
「そうじゃろ あったけえじゃろう。ちょこっと待ってな。じっさまの仕事も
きりがつくじゃろうから、そしたら 芋汁をやるでな。」
「じっさま そろそろ終わりにしなしゃんせ。じっさまの好きな芋汁もできたでな。」
「よっしゃ そんじゃあ 今夜はこんでおしまいじゃ。 あ あ~あ。」
じっさまは大きな背伸びをしてから 土間のなわを片付けました。

・・・・・・

「おまっとうさん。」
じっさまはイロリのそばに来ました。
「さあさ たんと食べれ。」
ばっさまはお椀に芋汁をそそぎ、童に差し出しました。
よほどお腹がすいていたのでしょう。あわてて食べようとしましたが、
熱くて食べられません。
「これこれ そんなにあわてなくてもええじゃ。芋汁はたんとあるでな。
それにな、ほれ こうして 食べるんじゃ。」
じっさまは 童のお椀にフーフー息をかけました。
「ほれ こうすると さめるじゃろ。そうやって 食べろ。」
童はフーフー息をかけながら 芋汁を食べはじめました。
「さあさ じっさまも。」
ばっさまがじっさまにお椀を差し出しました。
「あんがとよ。」
じっさまも芋汁をフーフー息をかけながら食べました。

・・・・・

「食った食った もお食えん。ほれ お腹がポンポコポンじゃ。」
童はそう言ってお腹をたたきました。

ポン! 

童のお腹からはとってもいい音がしました。
「ホホホ うまかったか?」ばっさまが言うと 「うん とってもうまかった。」
「たんと食べたで なんや眠うなってきただ。」
「そうかそうか そんならそこで横になれ。」
じっさまは 童を自分の横に寝かせました。

お腹が一杯になり、温かくなったので 
童はすぐに寝息をたてて寝てしまいました。
じっさまとばっさまは芋汁を食べながら、その童を見てはニコニコしていました。
「かわええの かわええの。」
じっさまが言いました。ばっさまも「うん うん。」うなづきました。
そして 又童の寝顔をのぞきこみました。

と!、

「じっさま じっさま ちょっと見んさい。」
ばっさまがじっさまに言いました。
「どないしたんじゃ?」じっさまが言いますと、
ばっさまは 童のお尻のあたりを
ゆびさして、「ほれほれ このとおり。」
「ありゃりゃ シッポじゃシッポ。」
なんと 童のお尻からはタヌキのシッポが覗いていました。

やさしい じっさまとばっさまで タヌキもついつい安心したのでしょう。
シッポを出してしまいました。が、じっさまもばっさまも そんなことは全然
気にもせず、眺めておりました。
「かわええのう かわええのう。」「うん うん。」
じっさまとばっさまは 幾度となく言いました。

寒い冬の夜のことです。
じっさまとばっさまもイロリのそばで横になりました。
イロリの火は赤々と燃えています。まるで二人の心持のように・・・・

次の朝、タヌキのポンタはガバッとハネ起きました。
あたりをキョロキョロ見回すと、じっさまは土間でぞうりを作っています。
ばっさまはカマドのそばでなにやら炊いています。
「じっさま ばっさま夕べはありがと。オラもう出て行くだ。」
じっさまもばっさまも 驚いて言いました。
「出てゆくちゅうたって どこいくだ?」
「どこって 言っても・・・・・」
ポンタはもじもじしながら答えました。
「お前さえよかっらた ここにずっとおったらええぞ。」
じっさまが言いました。
ポンタは、じっさまもばっさまも自分のことを本当に人間の子供だと信じて
いると思いました。ポンタは じっさまとばっさまに悪いことをしたと思いました。
「おら やっぱり出て行くだ。」
「お前がタヌキだからか・?」
じっさまが 急にこう言ったのでポンタはびっくりしてしまいました。
「おら・・おら・・」
「お前がタヌキじゃろうと本当の子供だろうと、キツネだろうと 、
そんなことはええ。お前さえよければ ここにズッといろ。」
「そうじゃそうじゃ ポンタ ずっとここにいろ。」
ばっさまもこう言いました。

ポンタはあまりのことにオロオロしてしまいました。
こんなやさしいじっさまとばっさまと一緒に暮らせたら
どんなにかいいことかと思いました。
「ポンタ、ポンタ こっちに来い!」
ばっさまが言いました。
「おお ポンタ、ポンタ じっさまへも来い。」
じっさまも 同じように言いました。
ポンタは嬉しくなって、「うん ばっさま。」
と言ってばっさまのひざの上に
行きました。それから じっさまの うでの中に行きました。

こうして
タヌキのポンタはじっさまとばっさまと一緒に暮らすことになりました。

「ポンタや もうすぐたあんと雪が降るぞ。その前に山へ薪を取りに行くで
ついてくるか?」
じっさまが言いました。
「うん おらじっさまと一緒に行く!」
ポンタは嬉しそうに答えました。
「そうかそうか そんならおにぎりをこさえたるの。なんせポンタは
大飯食いじゃからの。 ホホホホホ」
ばっさまは笑いながら言いました。
ポンタは照れくさそうに「へへへへ。」と笑いました。

じっさまは裏の軒の下から薪を背負うショイコを二つ持って来ました。
それから 腰にはナタをつけました。
「おにぎりはポンタが持っていけ。じゃが 途中で食べてしまうなよハハハハハ。」
じっさまも楽しそうに言いました。
なにせ じっさまとばっさまにはポンタという可愛い子供が出来たのです。
こんな嬉しいことはありません。
ポンタもこんなにやさしいじっさまとばっさまと一緒に暮らせるのです。
とても幸せな気分でした。

「さあ たあんとおにぎりも作ったで、ポンタほれちょっくら重いぞ。」
ばっさまは たくさんのおにぎりをポンタに渡しました。
「ばっさま そんじゃいって来るぞな。」
ポンタは言いました。そして 早足で外に出ました。
「じっさま 早くいくぞ。」ポンタははりきっています。
「あわてるな あわてるな。」じっさまは 笑いながら言いました。
「そんじゃ ばっさま行って来るでな。」
「おうおう じっさま気をつけてな。」
ばっさまは 外に出て二人を送り出しました。

時々木枯らしがピープー吹いてきて、まもなくたくさんの雪が降ることでしょう。
遠くの山々はもう真っ白に雪化粧をしています。
雪が降り始めるとこのあたりは全部雪の中に埋もれてしまいます。
ばっさまに見送られ二人は山へと向かいました。

じっさまとポンタは話しながら山道を歩いています。
「じっさま 今日はたあんと柴かれたな。」
「おうおう たあんとかれた。ポンタがようがんばった。」
「じっさま 今日はたあんと薪をひろったな。」
「おうおう たあんと拾ったぞ。ポンタがようけ拾ったわい。」
「じっさまじっさま、ばっさまのこさえたおにぎりうまかったな。」
「おうおう うまかった。ポンタはようけ食べたワイ。」
「じっさま じっさま オラキノコがいっぱいあるとこ知ってるだ。
ポンポコ谷の近くだけんど、ばっさまにとっていってやろかの。」
「ポンポコ谷まではちと遠いぞ。」
「近道があるだ。じっさま いこ。雪が降る前が一番うめえぞ。」
「そんなら いこまいか。」
じっさまとポンタはポンポコ山へと向かいました。

ひとつ山を越え谷に入るところで、突然!
ガラガラガラ!ものすごい音とともに山の中ほどから岩が崩れてきました。
「あっ!ポンタあぶねえ!。」
じっさまはポンタを自分の腕の中に抱え込み、
近くの大きな切り株の後に隠れました。
ゴロゴゴロ!
岩はじっさまのそばを転げ落ちていきました。

「じっさま ありがと オラびっくりしただ。! じっさま どうしただ?」
じっさまは 足をおさえて痛そうにしています。
岩崩から逃げる時にどうやら足をくじいてしまったようです。
「じっさま オラ誰かよんでくる。少しまっててくれ!。」
ポンタは、そう言って 走り出しました。

ポンタは走りました。ひとつ山を戻り、二つ目の山を越え、
ようやく村への街道に出ました。もう少しすると夕方になってしまいます。
ポンタは少しあせっていました。
「ああ じっさま 大丈夫かの。誰かいないかの。」
一本松の近くまで来た時です。
近くの畑に男の人と女の人が野良仕事をしていました。
「ああよかった。お~い そこの人、オラのじっさまが 山で足をくじいてしまった。
たのむで 助けてくんろ!。」
その声でしゃがんで仕事をしていた二人は立ち上がり、ポンタの方を見ました。
そこには タヌキがいるではありませんか。
「やや! タヌキじゃタヌキ! おっとう、おらたちをだまくらかすつもりじゃろ。
つかまえてタヌキ汁にしよまいか。」
「そうじゃ そうじゃ そうしよう!」

二人は仕事をやめてポンタのほうへ走ってきます。
これにはポンタもびっくり、慌てて逃げ出しました。ふたりは追いかけてきます。
ポンタは一本松まで逃げてきました。と、そこにはお地蔵様がいらっしゃる。
ポンタはお地蔵様に言いました。
「お願いじゃ、おらをかくまってくれ。」
ポンタはお地蔵様の後に身を隠しました。

そこへ二人がやってきました。
「どこいった?確かこの辺にきたと思ったが・・」
「あっちじゃ あっちを探そう。」
ふたりは 別の方に走っていきました。
二人が遠ざかったのを見て、ポンタはお地蔵様の後からでてきました。
「ああ こわかった。お地蔵様 ありがとう。けんど だれもオラの言うこと
信じてくれん。お地蔵様オラどうしたらええんじゃ。オラ タヌキだけんど
オラ タヌキじゃねえ!」
「こうなったら オラがじっさまを・・・」
ポンタはまたじっさまのいる山へと走っていきました。

ゴ~~ン

寺の鐘の音が聞こえてきます。あたりは次第に暗くなり始めました。
ばっさまが お地蔵様のところまでやってきました。
「心配じゃのう。さっき村の衆がタヌキジャタヌキじゃと騒いでおったが、
じっさまがどうの、足がどうのと聞こえたが・・どうも心配じゃて、
お地蔵様、どうぞじっさまとポンタをお守りくださいな。」
ばっさまがお地蔵様にお願いをしている時です。
ポンタがじっさまをせなかにおぶってやってきました。

「ポンタ!どうしたんじゃ?じっさま!どうしたんじゃ?」
ばっさまは驚いて二人に尋ねました。
「ばっさま、ああ助かった。じっさまが足をくじいて歩けんのじゃ。オラ、
村の人に助けてってたのんだけんど、オラガタヌキじゃけん、誰も信じてくれん。」
ポンタはそう言ってじっさまを背中におぶさったままその場に倒れてしまいました。
「こったら小せえ体でわしをここまで背負ってきたんじゃ。えらかっらろうの。」
「そうかそうか、ポンタようここまでがんばったのう。」
「オラくやしい オラタヌキじゃども、オラタヌキじゃねえ!」
ばっさまも 目に泪をうかべて言いました。
「そうじゃそうじゃ お前はじっさまとばっさまの童のポンタじゃ。」

いつしか先の百姓の男の人と女の人が、村人達とやってきていました。
「じっさま、ばっさまかんにんな。
タヌキがオラたちをてっきりだまくらかすと思ってな。」
「ポンタ かんにんな。もうお前のことをタヌキなんていわねえからな。」
「さあ じっさま、オラの背中におぶされ。家さ帰るだ。」
こうして ポンタ達は家に帰ることになりました。

ポンタは少し歩いてから、ふと立ち止まりお地蔵様のところに戻りました。
そしてお地蔵様に手を合わせ、「お地蔵様、ありがと。」
お地蔵様は何も言わず、ただ だまって立っています。
あたりは、夕闇がせまってきました。

・・・・・

「ポンタ、ポンタじっさまこい。」
「うんうんじっさま。」
「ポンタ ポンタばっさまへこい。」
「うんうん ばっさま。」
家の中のイロリのそばで、じっさまとばっさまにはさまれ、ポンタは
うれしそうにあっちへいったり、こっちにきたりしています。
じっさまもばっさまも笑いながらポンタをかわるがわる抱いています。

三人はこうしていつまでもいつまでも幸せに暮らしました。

おしまい

◆たぬき地蔵のおはなし

むかしむかし

ポンポコ山にポン吉と言うタヌキが棲んでいました。
ポン吉はとてもいたづら好きで、街道にでてはいつも人間を
驚かしたりダマしたりしていました。

ある日のこと、ポン吉は一本松のある峠にやってきました。
すると そこにはお地蔵様があって、なにやらお供えをしてる人がいます。
ポン吉は草むらからその様子をじっと見ていました。

人間が去ったあと、そのお地蔵様のところに行くと、そこには
美味しそうなお菓子がおいてありました。
ポン吉はそれをパっと口の中にほうり込みました。
「うめえ!こんなうめえもん食ったことがねえ。」
「お地蔵様はこんなうめえもんくうとるのか。よっしゃそれじゃあ
オラがお地蔵様になって、いっぺえうまいもんくうたろ。」

ポン吉はそのお地蔵様を近くの川にすててしまい、
自分がお地蔵様にバケてしまいました。
そしてそのお地蔵様がおった場所になにくわぬ顔でチョコンとたちました。

どのくらいたったことでしょう。いいかげん待ちくたびれたから、やっぱり
やめようとした時です。村の方から、一人の男の人がやってきました。
どうやらこれから遠くへ旅に出る様子です。
男の人はお地蔵様の傍にきて、「お地蔵様、どうぞ道中が無事に過ごせます
ように。」とお願いをしました。そして道中で食べようとしたおにぎりの一つを
お供えをして、旅に出ていきました。

ポン吉はお腹がグっとなるのをがまんをしていました。男の人の姿がみえなく
なるやいなや、元のタヌキの姿に戻り、「やあ これはおいしそうなおにぎりだ。
うまくいったぞ、うまくいったぞ。」
といってむしゃむしゃとおにぎりを食べてしまいました。
「こんなええことはない。いっぺんやったらやめられないな。」
「もうちょっとなんかくいてえな。早くだれかこないかな。」
そう言いながら、キョロキョロしていると、峠の下のほうから、おばあさんが
やってきます。ポン吉はまたお地蔵様にバケました。

おばあさんは杖をつき、「えいこらしょ。」と言いながら、
お地蔵様の傍までやってきました。
「ああ、やっとこさここまで登ってこれたわい。あとすこしじゃが、
のどがかわいた。お地蔵様のそばで、ミカンでも食べて一休みじゃ。」
こういいながらおばあさんは、お地蔵様の傍に腰をおろし、
懐からミカンを取り出しました。そうしておいしそうに食べ始めました。
ポン吉はそれを見ていて、喉がゴクゴクといい始めました。
ミカンを食べをわったおばあさんは、「よっこらっしょっと。」と言って立ち上がり、
「お地蔵様も一つ食べなさるかね。」「おひとつどうぞ。」
おばあさんは、ミカンをおいて、村の方に「えいこらしょ。」といいながら歩いて
いきました。

「やったやった。うまくいったぞ。」
ポン吉は大喜びです。甘くておいしそうなミカンをペロリとたべてしまいました。
「よおし、お腹がすいたらこうすればええんじゃ。」
おなかがいっぱいになったポン吉は、もちまえのいたづら心が出てきました。
「おなかも一杯になったし、よおし今度は人間どもをおどろかしてやろ。」
ポン吉はまたお地蔵様にバケました。そして知らぬ顔をしてたっていますと、
峠のしたのほうから男の人がやってきます。それを横目でみていますと、
その人はペコリと頭をさげて通り過ぎようとしました。
これではおどろかそうと待っていたかいがありません。
ポン吉は大きな声でその男の人に言いました。
「まてまてまてえ。」

おとこのひとは驚いて立ち止まりました。
あたりをキョロキョロみまわしていると、
お地蔵様が突然!
「なにかお供えをしろ!。」といったとみるや、それは大きな鬼になりました。
男の人は急にあらわれた鬼にびっくりして、「ひえ~~~~。」と村のほうに
逃げていきました。

ポン吉は元のタヌキに戻って思いっきり笑いました。
あまりの男の人の驚きようがおかしかったからです。
お腹をかかえてワハハと笑っていると、村のほうから誰やら又来ます。
「よおし!もう一度おどろかしてやろっと。」
ポン吉はまたお地蔵様にバケました。

やってきたのは和尚様でした。その後にはさっきの男の人がいました。
男の人は和尚様の背中から、お地蔵様のほうを指差していいました。
「和尚様。あのお地藏様は本当は鬼です。
もう少しで私は食べられるところでした。お願いです退治してください。」
そう言って男の人は村へ逃げ帰りました。

和尚様はお地蔵様の傍まできてじろじろと見回しました。
ポン吉はばれてしまうのが恐ろしくてじっとしていました。
和尚様はそのお地蔵様をみて一目でタヌキがバケていると見破りましたが、
少しばかり懲らしめてやろうと思い、
「どれどれ、ちょっとかわったお地蔵様じゃ。
本当のお地蔵様か調べることにしよう。」
「私がお経を唱えると本当のお地蔵様ならシッポが出てくるはずじゃ。」
そういって和尚様がお経を唱えるふりをすると、ポン吉はこれは大変と思い、
思わずシッポを出してしまったのです。

和尚様はしてやったりと思いましたが、さらにこう言いました。
「どうやら本当のお地蔵様のようじゃ。だが今一度確かめてみようかの。
本当のお地蔵様なら私がお経を唱えて、
{えっへん}と言うと{おっほん}というはずじゃ。」
ポン吉はここでバレたら一大事と思い、
和尚様がお経を唱えるのを必死で聞いていましたので、
ついついバケていることを忘れてしまいましたからタヌキにもどってしまいました。

「えっへん!」
和尚様はおおきな声でいいました。ポン吉はあわてて答えました。
「おっほん!」
ポン吉は和尚様と同じくらいの大きな声でいいました。
その拍子に頭の上にのせていた木の葉はヒラリと下に落ちました。

「ははは いたづらタヌキめ。」
和尚様は今度は本当にお経を唱えました。
すると、ポン吉の体はピクリとも動かなくなりました。
バレてしまって逃げようとするのですが、ぜんぜん体がいうことを聞きません。
「いたづらタヌキよ、お前は本当のお地蔵様になってしまったぞよ。
わははははどうじゃ動けまい。
お前が今まで悪さをしてきただけ、いい行いをしたら 解いてしんぜよう。
よいな、ははははは。」
和尚様はそう言って立ち去ってしまいました。

ポン吉は困ってしまいました。自分の体がぜんぜん動きません。
「ああ困った。どうしよう。このままでは 本当にお地蔵様にされてしまう。」
「それに このままだと人間にタヌキだとわかってしまう。和尚様はいい行いを
したら戻してくれるって言ったけど、どうすればええのかの。」
「ああ こんな悪さをしなければよかった。」
ポン吉は今までしてきたことを後悔しました。

こうしてポン吉は夜を迎えました。
松の木の枝の間からお月様が、顔を出しました。
ポン吉はお月様に向かって尋ねました。
「お月様おらどうすればええんじゃ?教えてくれ。」
でもお月様は何も言いません。ただ黙ってみているだけでした。

{うぇ~~ん、うぇ~~ん}

何処からか赤ん坊の泣き声が聞こえました。
その声はだんだんとこっちに近づいてきます。
村の方から一人のおばさんが、赤ん坊を背中におぶってこっちにやってきます。
「困ったねえ、ちっとも泣き止んでくれないね。おおよしよし。
お地蔵様どうかこの子が泣かないようにして下さい。」
おばさんはポン吉いえ、お地蔵様にこう言いました。
どうやら本当のお地蔵様にみえるみたいです。
ポン吉は少しは安心しました。
それに 余りにもその赤ん坊が可愛かったので、おもわずベロベロバーっと
大きな舌を出しました。

それをみた赤ん坊は大きな声で「キャッキャ。」と笑いました。
これにはおばさんもびっくり、
「あれ!この子が泣き止んだ。そればかりか笑い始めた。
お地蔵様さっそくおらのお願いをきいてくれてありがとうございました。」
おばさんは喜んで家のほうに帰っていきました。

ポン吉もなんだかホっとしました。
これを見ていたお月様が言いました。

{いいこと 一つ よかったね。}

つぎの日は、朝からくもっていました。
雲が次々と流れていきます。
ポン吉は動くに動けず、お地蔵様の姿のままでじっとしています。
「お~い雲よおらをたすけてくれ。」
でも雲はなにもいわず次々と流れていきます。
しばらくして、今度は黒い雲が流れてきたかとおもうと、
ピカピカピカゴロゴロゴロ!
カミナリが鳴りはじめました。そして雨がザア~っと降り始めました。
「こまったな ずぶぬれになってしまう。でも動けないし、困ったな。」
ポン吉は泣き出したくなりました。

そんな中を一人の男の人が通りかかりました。雨が降り出してずぶぬれです。
ゴホンゴホンとせきをしながら「こまったなあ。」と言いました。
ポン吉はかわいそうになって、「この笠をかぶっていきなさい。」
と言ってしまいました。
男の人はちょっとびっくりしましたが、
よく見るとお地蔵様の頭に笠があったのでそれを自分の頭にかぶり、
「お地蔵様ほんの少しお借りします。後で必ずお返しにあがります。」
そういって雨の中をかけぬけて行きました。

いつしか雨も通り過ぎていきました。先ほどの雲が言いました。

{いいこと 一つ よかったね}

雲が去り、いつしかお日様が出てきました。
ポン吉は少しばかり暖かくなりました。そう 体も心も・・・・
でもやっぱりお地蔵様のままです。
「お~い お日様よ~。」
ポン吉はお日様に向かって言いました。
「おら 早くもとの姿にもどりたいよ~。」
でも お日様はなにも言いません。

「きゃあ~~~っつ。」

峠の下のほうで叫び声が聞こえました。
ポン吉は何事かと思いそのほうを見ようとしましたが、
体が言うことをきいてくれません。仕方なくじっとしていると、
女の人が走ってきてポン吉の後に隠れました。
「お地蔵様、助けてください。犬が追いかけてきます。お願いです。」

ワンワンワン 
犬がポン吉の前まで来ました。
実はポン吉も犬は大嫌いです。逃げ出したいのですが、逃げれません。
{鬼になっておどろかせたらなあ}と思いました。すると!
ポン吉のいえ、お地蔵様の後からこわ~い鬼が現れて、
「ゴオオオオオオ・・・・・」
それを見た犬はびっくりして、キャンキャンと鳴いて逃げていってしまいました。

「お地蔵様、ありがとう、ありがとう。」
女の人はお地蔵様に何度も頭をさげ、村へと帰っていきました。

これを見ていたお日様が言いました。

{いいこと ひとつ よかったね}
{まもなく、まもなく いいこといっぱい}

暖かいお日様の光の中で、ポン吉はうとうと うたたねをしていました。
と、 なにやら村の方向から人間たちのこえが聞こえます。そしてそれは
だんだんこっちに近づいてきます。ポン吉はあわてました。
逃げようとしたのですが、お地蔵様にされていることに気が付きました。
「ああ もうだめじゃ。村の人たちがおらをやつけにくるんじゃ。
うえ~~~ん。もうだめじゃ お日様助けてくんろ。」
必死になってお日様にたのみましたが、お日様は知らんふり・・・・

村の人たちが次々とお地蔵様の前にやってきました。
「お地蔵様、夕べはほんとに有難うございました。
お陰で赤ん坊も泣かなくなりました。お地蔵様、これはほんのお礼です。」
それは 夕べ子供を背中におぶっていた あのおばさんでした。

「お地蔵様、先ほどは笠をありがとうございました。お返しに参りました。」
こう言ったのは、先ほどの男の人でした。男の人は、笠をポン吉の頭にしっかりと
かぶせて言いました。「これはほんの気持ちです。」

「お地蔵様、もう犬は来ないね。本当に危ないところありがとうございました。」
よく見ると、先ほど助けた女の人です。
村の人たちも「ありがたや、ありがたや。」と言いながら、お地蔵様の前に
お菓子やら、ミカンやらを一杯供えました。
そして、「これからもどうぞお助けください。」と言って村へ帰っていきました。

ポン吉はとっても幸せな気持ちでした。
今まで、人を驚かせていたときは、いつもビクビクしていましたが、今は違います。
ポン吉はこのままお地蔵様でもいいやと思っていました。
そこへ、隣村の法事の用が済んだ和尚様が戻ってきました。
「ほほう、タヌキよ お前は随分の良い行いをしたみたいじゃな。
ようし 元にもどしてあげよう。」

和尚様はお経を唱えました。
すると、今まで動くに動けなかった体がスっと動くようになりました。
「和尚様 ありがとう。 もうぜったい悪さをしないよ。」
「そうかそうか よくわかっただろう。 
いい事をすれば その分自分のところに戻ってくるんじゃな。
よしよし、そのお供えはお前のものじゃ それをもって山に帰るがよい。」
和尚様はニコニコ顔でポン吉に言いました。
「和尚様 ありがとう。 もうぜったいいたづらはしないよ。ありがとう。」
こう言って、ポン吉は山へ帰っていきました。

おしまい

③ぽんぽこやまのおはなし

ポンポコ山には3つのお話があります。ポンポコ島物語とは別のおはなしとなります。

私が最初に書き始めたのは創造物語で、美濃加茂市近郊の題材を元に物語を書きましたが、特にこのタヌキを使っての題材を気に入って色々イメージを膨らましています。「ポンポコ」の4文字を変化させると、ポンポコ・ポポコン・ポコポンなどなど色々に使えます。ただ、自分でもどれがどれだかわからなくなる時もあります。それが又楽しくて思考を膨らませています。<<ポンポコ島>>にはまだいろいろありますので、順次こちらに移し替えてきます。工房音絵夢ingの公式サイトは

http://ne-ming.com/     です。

②ポンポコ島伝説第二巻

このポンポコ島伝説第二巻も、第一巻同様ロールプレインゲームの様な感じで作り上げていますので、WORDPRESSにもちこめません。アイコンクリックか、下のURLからお入りください。

https://ne-ming.com/ponpokodensetu-2/ponpokodensetu-2puroro-gu.html

①ポンポコ島ものがたりその2

このポンポコ島ものがたりも 第一話・第二話・第三話・・・と進んできました。
いよいよ 物語の佳境に入っていきます。

余談ですが、タヌキの子どもが一度に生まれる数は平均3~5匹だそうです。
オス1:メス0.36の割合でオスの方が多く生まれるとのことです。
8日目くらいで目があき、20日ごろからは歯もはえてきます。1週間がすぎると
だんだん足腰がしっかりしてきて、よちよち歩くようになります。
おかあさんは、赤ちゃんをくわえて運びますが、その時おしりや胴を咥えるので、
あちこち 頭をぶつけてしまいますがぜ~んぜん気にしません。

タヌキのお父さんは理想的な父親像といえるでしょう。
まず、赤ちゃんが生まれるとすぐにかけつけ、一緒になめてあげます。
産後3日くらい外に出られない母親に、一生懸命ご飯をはこびます。
家族が中にいる時は巣の外で見張りをし、物音がすればすぐ家族の所へ
かけつけます。お母さんが食事に出ている時はおなじ格好で子どもを抱いて
あげます。離乳食を始めた子どもたちにえさを運んであげます。おかあさんは
産後の体力回復に精一杯なのです。
あかちゃんがうんこをしそうになると、お尻をなめてあげ、出たうんこは食べてしまいます。
(お食事中の方は読まないで下さい。)
幼児期をむかえた子どもたちの相手はお父さんなのです。
生まれて1ケ月もすると、体毛も変化し、そして3ケ月もすると親と同じくらいの体格になり、
9~11ケ月で親タヌキとなります。
すこしばかり余談が長くなりました。

お話はいったん今から3年ほど前にさかのぼります。
そうです ポコやコポが生まれた時までもどります。

では はじまりはじまり

ポンポコ島ものがたりその2出会いそして

【第一話】

{おぎゃ~おぎゃ~}本当にこんな風に泣いたのかどうかはわかりませんが、
ポコンポ山の統領に待望の二世が誕生しました。

「おおでかしたでかした。よくがんばったな」
「あなた、わたしうれしい。こんな可愛い子どもが、二人も生まれるなんて。」
「うんうん、とても元気そうな男の子じゃ。早速名前をつけねばならんの。」
「ええ、 ねえあなた この子達の名前私がつけてもいい?」
「うん? いいとも なにか良い名前があるのか?」
「ええ、私決めてたの。男の子だったら ポコ、コポ、女の子は生まれなかったから・・・、
でも もし生まれていたら ポポ」
「ポコ、コポか。 うん とても良い名前じゃ。よし!ポコとコポに決めたぞ。」
「あなた・・・」
「わっはっは 今日はとても気分が良い。 早速 若頭達に 誕生会の準備をさせねば。」
「でも あなた ポコとコポは今生まれたばかりよ。」

「ははははは 勿論誕生会は7日後じゃ。 で、それまでおまえは体を早く回復させるのじゃ。
おれが一杯食べ物を取ってきてやるからな。 早く元気になってくれんと、おれも寂しいからな。」
「あ あなた・・・。」
「おいおい 何を泣いておる? そもそもわれら タヌキの一族はもともとは かかあ殿下じゃ。
女のおまえがそんなふうではわれら一族の将来は不安ぞ。」
「まあ なんてことを・・・」
「ははは ゆるせ。本当に今日は気分が良い。 ああ 楽しみじゃ。早く誕生会にならぬかの。」


統領はとても良い気分でした。
1日がまたたく間に過ぎ、二日目となり、三日めとなりました。統領は妻のためにせっせと
食事を運びます。そしてポコとコポの世話をこまめにやっておりました。
その顔はほころんでいて、時折妻や若頭にもっと威厳をもつようにと言われるのですが、
その顔は変わりません。ポコ、コポはこうして幸せな日々を過ごしておりました。

つづく

【第二話】

「統領、大変です!南の方角からなにやら怪しげな雲がやってきます!」
「む!よし皆を集めよ!女・子どもは1つ場所に固まるのじゃ!」
「注意を怠るな!」「お前達は 洞穴の入り口を、お前たちは向こうがわじゃ!」
適確に次々と統領は指示を出していきました。
このときにはまだ誰もキツネ族が襲ってくるとは思ってもいませんでした。


やがてその黒い雲はポコンポ山を覆い尽くしました。 そして!
その黒雲の中から キツネ族の戦士たちが降りてきて、アッとおもう間もなく
統領たちを取り囲みました。
「お前たち、ここから黙って出て行け!今日からはこの山は俺たちが取り仕切る。」
「何だと! ここはもともとわれらのすみか、どうしてお前たちにわたさなくてはならん!」
「そんな 強がりを言ってると、皆殺しだぞ!」
「そんなことは 絶対にさせん!」
「まだ そんなことを言うのか。おい!やろうども こいつら全員やっつけろ!」

とうとう戦いが始まってしまいました。
統領はじめタヌキ族は勇敢に戦いましたが、何分準備不足の上、人数もいません。
じわじわと 攻め込まれていきました。
「このままではだめじゃ!たのむ ポコとコポを連れ出してくれ!」
「おやじさま!」
「せいいっぱいくい止めるから、その間に 頼んだぞ!」
統領は勇敢にもたった一人でキツネ族を相手に戦いました。
「3年後じゃ!このことは3年たったら話してやってくれ!」
統領はこういい残し、戦いの場を離す為 敵の大将めがけて走りこんでいきました。

つづく

【第三話】

それは 激しい戦いでした。

でも いかんせんあまりにも急なことでしたので、タヌキたちは戦いに敗れてしまいました。
統領とその妻はとらわれの身となって地下の牢に閉じ込められ、
その他の者たちはキツネたちの奴隷としてこき使われました。
ポコンポ山はもはや完全にキツネ族の山となってしまいました。キツネたちはさらに
自分たちの住処を増やすべくこのポンポコ島をのっとるべき手はずをしていましたが、
タヌキ族の風水師であるポポンが思い切って、ポコンポ山とコポンポ山の間に深い溝を
造ってしまったので、島全体は救われました。

「あなた・・・これからどうなるのでしょう?」
「うむ こうしてとらわれとなった今どうする事も出来ぬ。あとは ポコたちに託すのみじゃ。」
「でも 皆が奴隷となって働いているのを見ると、とてもつらくて・・・いっそのこと私たちを
殺してくれればよかったのに・・・」
「そこは キツネどものずるがしこいところじゃ。わしらを殺せば、絶対に他の者たちは
服従をしないだろう。わしらを生かせておく事によって、皆をうまく使いこなせるわけじゃ。」
「お前にも苦労をかけるの。わしの妻にさえならなかったら、お前はあのポンポコ山で楽しく
暮らせただろうに・・・」
「何を言うのあなた。私は好きであなたと一緒になったんです。共に苦労することなんか
何でもありません。ただ・・・別れてしまったポコとコポのことが気がかりで、いったい
今ごろどうしているのか、そればかりが心配で・・・」
「そうじゃのう わしもそのことが大変気になっている。
じゃが、わしの片腕に頼んだから、今ごろはきっと元気に暮らしていると思う。
統領としての修練や、戦士としての修行をきっちりやっていることじゃろう。」
「二人が ここにやってくるのをじっと待つ事にしよう。きっとやってくる!わしの子どもじゃ。
3年たったら必ずここに来るだろう。」

統領とその妻はこれからの長くてつらい毎日を互いになぐさめあいながら過ごしておりました

つづく

 

 

★★★本来はここからポン助と、ポコ・コポたちと同時進行で物語が展開するのですが、ここでは無理なので別々に行動することとします。〇4の1ポンス助のはなし〇4の2ポココポのはなしとします。★★★

【第四話】④の1ポンスケのはなし

ポン助がりんごに化けて乗り込んでいるとは知らず、キツネ達の黒雲は一路ポコンポ山へと向かっています。深い谷間を越え、いよいよポコンポ山が見えて来ました。

ポン助は内心ドキドキしていました。キツネたちを懲らしめてやろうと思いたって来たのはいいのですが、具体的な作戦があるわけではありません。

どうしたものか思案をしている間に とある大きな洞穴の前に着きました。キツネたちは、ただもくもくと荷物を運び込んでいます。やがてポン助を乗せた台座を運び始めました。何処へつれて行こうとするのか、ポン助は薄目をあけて見ていました。

洞穴の中はいくつもの部屋に別れていて、その一つ一つに番人が立っていました。
と!突然、叫んだものがいます。
「おい!あの娘はどこにいった?!」
ポン助はドキっとしました。地上について、つい気がゆるんでしまい、まんじゅうを娘に化かしていることを忘れてしまったからです。でも、キツネたちはそんな事は知りません。きっとどこかへ逃げてしまったものと思い込み、あちこちを探し始めました。

でも見つかるわけはありません。もともとそんな娘はいなかった訳ですから・・・・
「おい、ここにはいない。お前たちも一緒にさがせ!」
キツネたちは番人ともども、他の場所へと探しにでかけました。
ポン助の乗った台座はぽつんと部屋の前に置かれています。
あたりをそ~っと見ましたが、誰もいる気配はありません。
ポン助は元の姿に戻り大きな背伸びをしました。
「あ~あ、やっと自由になれたぞ、ちょこっと足腰が痛いけどまあ大丈夫じゃ。けんどこれはえらいことになっちゃったなあ。」
ポン助はまるで人事のように言いました。もともと、とても気楽な性格のポン助でしたので、今の自分のことなぞ、そう深刻には思っていません。
「よ~し、今の内にあたりを調べておこう!」

部屋には食べ物を集めた部屋、武器のおいてある部屋、何か人間の着物みたいなのが置いてある部屋、など一つ一つ別れていました。ポン助は部屋の食べ物は全部石に化しました。それから武器は全て使えなくしてしまいました。人間の着物みたいなものはすべて1つの大きな袋にしてしまいました。

そうやって部屋の一つ一つを使えなくしていきました。
最後の部屋についた時です。
部屋の中から声がしました。
ポン助はそ~っと中を覗き込みました。

 

 

【第四話】④の2ポココポのはなし

コポンポ山の迷宮を何とか通りぬけてきたポコとコポは、ついにポコンポ山へとたどり着いたのでした。

初めは二人ともぎこちなくしておりましたが、そこは兄弟です。すぐに仲良くなりました。{いっしょにおやじさまとおふくろ様を助けるんだ!}
その意気込みは次第に強くなってきました。

長い迷路を通り抜けうっすらとした光に誘われるようにして出たところはなんと ポコンポ山のどこかの洞穴でした。あたりを見回しながら進んでいくと、話し声や叫び声などが聞こえてきました。コポは仙人タヌキからもらった”ねむの木の枝”を使おうとしましたが、「コポ、まだ早い!もう少し後に使おう。」「うん その方がいいね。」

上の穴に続くのか、1つの通路がありました。二人はその通路に入り込みました。


通り抜けて出たところは1つの部屋でした。先ほどまで騒がしかったのに今は誰もいないようです。二人はここで今後のことを打ち合わせる事にしました。


「さて これからどうする?」
「まず 親父様とおふくろ様のいる場所をみつけるんだ。助け出してから次の行動に移ろう。」
「そうだね そうしよう。で、どっちへ行く?」
「この部屋はどうも一番離れたところみたいだ。順に探すしかないみたいだ。ここまで来たんだ。あと少し 頑張ろう!」
「うん ポコ 頑張ろうね。」

【第五話】

「君たちは どうしてここにいるんだい?」
 ぎょっ!
ポコとコポは急に話しかけられたのでびっくりしました。
振り向くと そこには 一人(1匹)の仲間がいるではありませんか。
でも どうして・・・ポコたちは不思議に思いました。

「君はだれだ?」
「おいらか おいらは ポン助と言うんだ。実はおいらは雲にのって
ポコポン山からやって来たんだ。で 君たちはどうしてここに?・・・」

ポコとコポは今までのいきさつをポン助に話しました。
「ふ~ん そういうことか。 よしわかった! おいらも一緒に探してやろう。」
「おいらも キツネ族を懲らしめる為にここに来たんだから。」

なんと たった一人でここまで来たのです。ポコとコポは このポン助の行動に
びっくりしました。
で、ポン助をみると、何としっぽが少し赤いではありませんか。
ポコはポン助に尋ねました。
「君の おじいさんの名前は? ひょっとして ポポン?」
「あれれ どうして知ってるんだ? そうだよ おじいちゃんは ポポンと言うよ。」


ポコとコポはお互いに目配せしました。{まちがいない ポン助は風水師だ}と
それならば!
ポコはポポンからあずかったあるものを 思い切ってポン助に投げつけました。
「何をするんだ!」
ポン助は驚きました・・・・・そして!「くしゅん ごほん !わ~~~これはなんだ。」
ポコはポン助になんと 唐辛子をつぶしていれてある袋を投げつけたのです。
でも これには 訳があるのです。

コポポン山でポポンから言われていました。「もしポン助が見つかったらこれを
投げつけよ」と、そうすれば ポン助は本当の風水師になれると・・・・
ポン助のシッポはあまりのくしゃみで 顔を真っ赤にした分だけ よけいに
赤くなってきたのです。
お陰で 風水のパワーがあがってきました。

ポコは事情を話しました。ようやくくしゃみがおさまって ポン助は涙を流しながら
「わかったよ それならしかたがないや。 でも くしゅん・・・」
ポコたちはポン助が少し可愛そうになりました。
「ごめんね 」
「いいよ いいよ 気にしないから・・」
「ポン助、これを預かってくれ。」
コポは ポポンから 預かった 薬草と ねむの木の枝を 渡しました。
「おお ねむの木の枝か こいつはすごいや これがあれば キツネ族なんか
一眠りだ。よ~~し 早速 でかけよう。 で どこに とらわれているんだい?
えっ! わからない それじゃ 風に聞いてみるよ。
お~い 風よ ポコとコポのおやじさまたちは どこにいる?」


<風>はこたえました。
「も1つ上の洞穴の中、一番奥の 魔王のそばさ」

<風>が教えてくれたとおり、1つ上の階はさらなる部屋になっていました。
真中の部屋は扉があっておいそれと入れそうにありません。
3人いえ3匹は右側の部屋へと入り込みました。
その部屋は 牢屋になっていました。
中は薄暗く、だれぞがいるのかどうかもわかりません。
ポコは小さな声で言いました。

「だれかいるかい?」
薄暗い中でなにやら動く気配がしました。
「だれ?」

「お前は誰じゃ?」
牢の中からとてもしわしわの声がしました。
「おいら ポコと言うんだ。おいらーーーー」
「なに! ポコ? 本当にポコか?」
「そうだよ ポコだよ コポも一緒だよ。」
「おお なんと! 待ったかいがあった。おい!お母さん ポコとコポじゃ。
いったとおりだろ。来てくれたんじゃ!。」
「で・では おやじさまとおふくろ様?」


「どんなにこの時を待ちわびた事か、おお やっぱり来てくれた。・・・」
「おい おかあさん。来てくれたぞ ポコとコポが おかあさん。」
「おふくろ様は どうしたんじゃ?」
「ちょっと 具合が悪くなってな。 おい!おきろ ポコだぞ!コポが来てくれたぞ!」

でも おふくろ様は いっこうに 起き上がってくる気配がありません。
「おふくろ!」
コポは 大きな声で 言いました。
「ポコ この薬を—」と言って ポン助が薬草を手渡しました。
「おやじ 早くこの薬草を おふくろ様に飲ませておくれ」
ポコは牢の格子の間から おやじさまに薬草を手渡しました。


薬草をのんだ おふくろ様はどうやら 気がついたみたいです。
ポコとコポはひとまずほっとしました。
「この牢の鍵は?」
「隣のへやのキツネ族の大将が持っておる。」
「よし!では取ってくる。」
「親父様 おふくろ様 いま少し 待ってておくれ すぐ助けてあげるから。」
「おお たのむぞ。」

ポコとコポそれに ポン助は この牢屋をあとにし 大将のいる 中央の部屋へと
向かったのでした。

つづく

 

【第六話】

そこでは 数人のキツネ達が 食事をしていました。
その周りには タヌキの子どもや女が座らされていました。

ポコやコポがいきなり入ってきたので、キツネたちは驚いています。

「な なんだ!お前たちは?」
大将と思われる傍の男がさっと身構えていいました。
大将は と見るとなんと シッポが赤いのです。{きっとこいつが風水を使うキツネに違いない}
ポコたちはそう思いました。
「おいらの 親父様とおふくろ様を助けにきた!」
「なに? するとお前はあのタヌキの子供か?」
「そうだ! やい よくも親父様達を苦しめてくれたな! さあ さっさとここを出て行け!」

「なに 出て行け? ふん 何を小ざかしい事を言ってるんだ。お前たちこそ出て行け!
さもないと お前らを残らず皆殺しにするぞ!」

キツネの大将はややよっぱらった足取りで立ち上がりました。

「いかん! 今ここで風水を使われては! ポコ・コポ、さあ 早く手を取り合うんだ!」
ポン助が慌てて言いましたので、ポコとコポはお互いの手を握り合いました。
ポン助はねむの木の枝を取り出し、頭の上あたりで グルグルとまわし始めました。

!すると いったいどうしたことでしょう。キツネ達は、いえ、周りの全ての者たちがグーグーと
いびきをかきながら眠ってしまいました。

ねむの木の枝のすばらしい力です。
「さあ 今のうちに 牢屋の鍵を探すんだ。」
「あった!」
「よし 早速親父様たちを助け出しにいこう!」
「まって!このままではいつ気が付くか知れない。どうする?」
「まず このキツネのシッポを切り取ろう。そうすれば 二度と風水の術は使えない。」
「よし!じゃあ、おいらが。」
コポはそう言ったかと思うと、スパっとキツネのシッポを切り取ってしまいました。
でも その大将はまったく気が付かず眠っています。
「これでもう大丈夫!でも このままでは・・・いっそ こいつらをすべて打ち殺して・・」
「コポ !だめだ!そんなことしちゃ! 」
「じゃあ 皆 奴隷にしよう」
「コポ それもだめだ!」
「兄さん!じゃあ いったいどうするんだ?!」

ポコは少し間をおいてから、ポン助に言いました。
「ポン助、この者たちを雲に乗せれるかい?」
「ああ できるとも。」
「それじゃあ この者たち全てを乗せて、ここからはるか南・・・・カッパ島のすぐ南に
誰も住んでない島がある。そこに降ろしてきてくれないか?」
「そんなことはお安いご用だ、でも そんなことでいいのか?親父様たちの敵をとらなくて
いいのか?」


「ああ いいとも こんな事繰り返していたら、いつまでたっても 真の平和は来ない。
もともと われらタヌキ族とキツネ族は同じイヌ族の仲間、いつまでもいがみ合って
いたところで、何の解決にもならないんだ。はじめ、おいらも いっそ皆殺しにでも
してやろうと思った。でも それは間違いだ! コポわかるだろ?
もう そんな時代は終わったんだ。
このまま なにもせず、気が付いたらまったく違うところにいた・・・・
最初は 驚くかも知れないが、キツネたちもきっと判ると思う。」

ポコは二人に語りつづけました。最初気が向かないそぶりをみせていたコポでしたが、
次第にポコの考えがわかってきました。
「兄さん わかったよ。そうだね このままでは、また同じことがおきるかもね。
よ~し、兄さんの言うとおりにしよう。ポン助はどう思う?」
「うん そのとおりと思うよ。よし!じゃあおいらがキツネたちを南の島に連れていって
くるよ。それまで待ってていてくれる?」

「ああ待ってるよ。」

ポン助は眠ったままのキツネ達を雲にのせ、それに先ほど石にしてしまった食べ物を
積み込んで、ポコンポ山を後にしました

つづく

【最終章その1】

雲がながれ、風がふき・・・・鳥は飛び交い、タヌキたちは楽しそうに走り回っています。
ポンポコ島には新しい時代がやってきました。
もう ポコンポ山とコポンポ山との境に深い断崖はなくなりました。
そう ポン助がそれを風水の術で取り払ったのです。

3年・・・、それは人間にとっては ほんのわずかな時ではありますが、
狸たちにとっては、とても長い3年でした。

でもポコやコポ、とりわけポン助の力でこのポンポコ島はもとの島に戻ったのです。

ポコンポ山での出来事以後、いったいどうなったのかお知りになりたいと思います。

実はポコとコポのおふくろ様・お母さんはポコ達を一目見た後、
悲しい事ですが、遠くタヌキ天国へと旅立ってしまったのです。

このことを詳しく書いて、読者の皆様に読んでいただくのが本当かとは思います。
私としては それを書くのが偲びがたく、こういう記述にさせていただきました。

動物でも人間でも同じこと、親子がはなればなれに、ましてやそれが永遠ともなれば、
その悲しさはひとしおです。

実のところ、つい先ごろ、私の家内の父親が永遠の眠りにつきました。
私にも本当の息子のようによく接してくれました。
お母さんはもう7年も前に遠くへと旅立っています。
私の実の父親も4年も前にやはり・・・・

この世に生きている限り、出会いと別れはついてまわります。
ですから、今!この今の出会いとふれあいを大切にして生きたいと思います。

いつか別れるその時ががくるまで・・・・・・・・

最終章その2へ

【最終章その2】

「親父様、どうしても ここに残るのかい?」
「ああ わしはもうそんなに長くない。ここにはわしの妻も眠っている。
生あるかぎり、わしはここに残り、守ってやりたい。」
「でも 親父様を置いてなんかいけないよ。」
「心配するな。わしの片腕が面倒をみてくれるといっている。何も心配するな。」
「でも・・・・」
「ポコよ 親孝行と思ってこのままにしてくれ。いまさら新しいところに行っても、
わしはかえって窮屈になってしまう。この思い出一杯の地で静かに過ごさせておくれ。」

「ポコ、親父様の好きにさせるがええ。」
ポン助が言いました。
「そうだね、お兄ちゃん そうさせてあげなよ。」
「コポ・・・、わかった。けど親父様、困った事があったらすぐ使いをおくれ。」
「ああ 約束するよ。」
「きっとだよ!」

こうしてポコ達は親父様を残しポコンポ山を後にしたのでした。
「さて これからどうする?」
コポが言いました。
「おいらははじめ思ってたとおり、ポンポコ山へいってくるよ。あそこは本当に人間たちと
仲がいいんだ。おいら そういうところで暮らしたいな。」
「そうか ポン助はポンポコ山へ行くのか・・・・・、コポ お前はどうするんだ?
おいらと一緒にこのポンポコ島を守っていってくれるかい?」
「いいや、おいらは おいらの道を行くさ。おいらには 弟や妹がポポコン山で待っている。
でも、兄さん おいら達は兄弟だ。例え離れていても絶対に忘れないよ。何かあったら
きっととんで来るから・・・・」
「そうだね コポ。兄弟だものね。」
「いいな 兄弟か——」
「ポン助、何を言うんだ。おいらたちは ポン助のことも兄弟だと思ってるよ な、 コポ。」
「そうさ 俺たちは 兄弟さ。こんなに気も合うんだものね。」
「うううう ありがとう。」
「ところで にいさん、これからは大変だぞ。なんせこのポンポコ島を取り仕切っていかなくては
ならないから・・・・」
「うん、でもこれは 親父様との約束じゃ。親父様は本当にこの島を愛してた。おいらも
その教えを守って、きっと すばらしい島にしてみせる!」
「ポコ お前だったらできるよ。遠く離れていても応援するからな。」
「うん ありがと。」
「みんな それぞれ離れていても、心は一つだぞ!」
「うん!」「もちろん!」


ポコとコポ、それにポン助はコンポポ山のてっぺんで互いに固い約束をしました。
ここが新しいポンポコ島の拠点になるのです。ポコはあたりをグルリと見渡しました。
ポコポン山、コポンポ山、ポンポコ山、コポポン山、ポポンコ山、ポポコン山、
そしてあの ポコンポ山とポンコポ山・・・・・・・
この 幾月かの間の出来事がうかんでは消えまた浮かびます。

さあ 新しい世界の始まりです!
ポンポコ島に幸いあれ!・・・・・・・・・・・・・・・

おしまい

ポンポコ島ものがたり いかがでしたでしょうか?
この 物語を書くにあたり、最初の構想とは
随分と 変わってしまいました。
でも それはそれ、
これで この物語を終わりとします。
ちょっと変わった発想でと思いつくりました。

 

ここで少し話を付け加えます。
ポンポコ山に行ったポン助ですが、
おりしも 祭りの日でした。
お地蔵様のある一本松の木の下で、皆楽しそうに
踊っておりました。
ポン助は松の木の枝の上で一緒になって踊りました。
(ポンポコ山のたぬきのまつりweb編をご覧下さい)
その後、その後の事は、皆様のご想像にお任せします。

 

①ポンポコ島ものがたりその1

【第一話ポン助のはなし】

ポコポン山に住むポン助は山のてっぺんの草むらにねころんでぼんやりとあたりを見ていました。

南の方角には三つのとがった形をしたコンポポ山があり、その隣にはポンポコ山の姿も見えます。

ポン助はゴロリと横をむきました。と、目の先にポンコポ山とポコンポ山のふたつ山が見えました。

ポン助はあわてて向きを変えました。

なぜって?そこは、昔から恐ろしい魔物がすんでいるとの言い伝えがある山だからです。

このふたつ山はまわりを深い谷にかこまれていておいそれとは行くことができません。

でもポンポコ島のどこかに、ふたつ山へ通じる隠し道があるとのことです。

ポン助はぼんやりと空を見上げていました。するとそこに<雲>が通りかかりました。

ポン助は<雲>にむかっていいました。

「お~~い雲よ、おいらをポンポコ山まで連れてってくれ。」

すると<雲>は答えました。

「いいとも、おやすいご用だ。でもこればっかは、私だけでは決めれない。

<風>さんにたのんでおくれ。」

そこで、ポン助は<風>に頼むことにしました。丁度いい具合に<風>が通りかかりました。

ポン助は<風>にむかっていいました。

「おおい 風よ、おいらをポンポコ山まで連れてってくれ。」

すると<風>は答えました。

「いいとも、おやすいご用だ。でもこればっかは、私だけでは決めれない。

<お日様>にたのんでおくれ。」

そこで、ポン助は<お日様>に頼むことにしました。

しばらくしていると、<お日様>が赤い顔をしてやってきました。

ポン助は<お日様>にむかっていいました。

「おおい お日様、おいらをあのポンポコ山まで連れてってくれ。」

すると<お日様>は答えました。

「私はポン助さんをあそこまで連れてはいけないよ。

だって、私といっしょだとポン助さんは溶けてしまうよ。雲にたのんでごらん。」

「雲にたのんだら、風にたのめって。風にたのんだら、お日様にたのめって。

お日様にたのんだら、雲にたのめって。…・いったいどうしたらいいんだ?」

「ははははは。そういうことか。」<お日様>は大きな声でわらいました。

そしてポン助にいいました。

「ポン助、いいともおやすいご用だ。

でも今日はダメだ。明日の朝<雲>を呼びにやらせるから、それまで待ってておくれ。」
<お日様>はそう言うと姿をかくしてしまいました。

つづく

 

【第二話ポン助のはなし】

次の日の朝、<雲>がポン助を呼びにきました。
「さあ、私の背中に乗りなさい。」
ポン助は<雲>の背中にヒョイと乗りました。
<雲>は<風>いいました。「さあ たのむよ風さん。」
<風>は<お日様>にいいました。「さあ たのむよお日様。」
<お日様>はねむそうにしながらも「ほいほいわかったよ。」とこたえました。
朝のあかるいひざしがポンポコ島の山々にさしはじめました。
今朝はまたかくべつにいい天気です。
ポン助を乗せた<雲>はす~っとポコポン山を離れました。

ポコポン山の上を2度ほどぐるりとまわり、ポン助をのせた<雲>はコポンポ山へと向かいはじめました。
「お~い そっちじゃないよ。おいらはポンポコ山へ行きたいんだ。」ポン助はあわてて言いました。
だってその方向は恐ろしいふたつ山への 方向だったからです。
「心配ないよ。ちゃんとポンポコ山にいってあげるよ。」<雲>はいいました。

コポポン山の上を通り、ポン助をのせた<雲>はポンポコ山へと向かいはじめたのでポン助はホっとしました。

どのくらい進んだ時でしょう。
<雲>の下の方でなにやら騒がしい音がします。
ポン助は気になって <雲>の間からのぞきました。
そこはどうやら人間の住む世界のようです。笛や太鼓の音も聞こえます。
ドンドン、ピーヒャララ 笛や太鼓の音が大きくなりました。ポン助は思わず体をのりだしました。と!

ぴゅ~~。
ポン助のからだは<雲>からまっさかさまに地上へと落ちていきました。

つづく

【第三話ポン助のはなし】

「ありがたや、ありがたや。」

気がつくとポン助はなにやら高い台の上に寝かされていました。

人間がポン助の周りを囲み、けんめいにお祈りをしています。

なにがどうなったのかわかりませんでした。

ポン助は薄目をあけてまわりをみました。

ご馳走がいっぱいならべられています。飲み物もたくさんおいてありました。

ゆっくり横をみると、きれいに着飾った一人の女の子が、

これまたきれいに着飾ったお母さんと、だきあって泣いています。

「ありがたや、ありがたや。」急に耳元で声がしたので、ポン助はビクっとしました。

「ポンポコ氏神様が、身代わりになってくださるんじゃ。」

「ほんに、ありがたいことで・・・」

「あの子を台座に乗せようとした時、突然氏神様がおりていらっしゃって・・・・」

「そうじゃそうじゃ。天から舞い降りてこられたときは、本当にびっくりしたけど、

こうしてあの子の身代わりになっていただけるなんて、なんとありがたいことじゃ。」

「ありがたや、ありがたや。」

やがて人々は笛や太鼓をならしなにやら一心にお祈りを始めました。と、

女の子が母親の手を振り切ってポン助のところにやってきました。

「ポンポコ氏神様、ごめんなさい。私、お母さんと別れるなんて・・・・。」

「ごめんないさい。あのポンコポ山へ行くなんて・・・・」

「ポンポコ氏神様、本当にありがとう。」

そう言って 女の子はまた母親の処に戻って行きました。

事態はようやくのみ込めました。

ポン助はポンポコ氏神様と勘違いされ、どうやら女の子の身代わりとして、

あの恐ろしいポンコポ山へいくことになったみたいです。

ポン助は、あの可愛い女の子の為、この村の人々の為

 身代わりとなって行く事を覚悟しました。

一転空が急に黒い雲で覆われてきました。

人々はあわてて逃げ出しました。そして、周りにはだれもいなくなってしまいました。

ポン助も大変怖かったけれど、傍にあったまんじゅうをきれいな女の子に化かし、

自分はその横のリンゴに化けてじっとしていました。

黒い雲は次第に空の上から降りてきました。

そして、その台座の近くまで来た時、その雲の上から声がしました。

「おい、今日の品物はまた格別だぞ。」

「ほんとだ、へへへ 人間なんてちょろいもんだ。ちょこっと脅かすとこんなことだもんな。」

「さあ 早速運ぶ事にしよう。ご主人がポンコポ山でお待ちだからな・・・」

なんと!それはキツネたちでした。

「なあんだキツネが悪さをしていたのか。」ポン助は正体がわかって安心しました。

「よおし それなら おいらが こいつらを懲らしめてやろう!」

ポン助が化けているとは知らず、キツネたちは 台座を黒い雲に積み込みました。

そして また空高くへと 浮き上がりました。

ポン助を乗せた黒雲はポンコポ山へと向かっていきました。

つづく

【第四話ポコのはなし】

ポポンコ山のポコは狸暦3歳になった日、じいさまから呼ばれました。
ポコは又いつもの長いお説教だなと、少しうんざりしてじいさまの所にいきました。

「お話ってなあに じいさま?」
ポコはできるだけ笑顔で言いました。そうしないと余計に話が長くなるからです。
「ポコや、今日は少し話が長くなるぞ。」
{あれれこれじゃあさっきのご機嫌とりはなにもならないや}
ポコはそう思いましたが、仕方なくじいさまの前に座りました。
と突然、今まで切株に座っていたじいさまが地面に座りこみました。
「ポコや、いや ポコ様、どうか今までのご無礼をおゆるしください。」

ポコはびっくりしました。だって今までじいさまがそんな話し方をしたことがなかった
からです。ポコはじいさまに聞きました。
「じいさま。どうかしたの? おいらびっくりするじゃないか。」
でも じいさまは真剣な顔をしています。ポコはだんだんと不安になってきました。
ポコが黙ってしまったのをみて、じいさまはポツリポツリと話し出しました。

「ポコや いやポコ様。あなたは本当は私の孫ではありません。あなたが生まれたその日、
いや、あなたはこのポポンコ山で生まれたのではないのです。あなたは・・」と 
じいさまは、はるか遠く、深い断崖で離れているポンコポ山を指差し話を続けました。
「あなたは、あのポンコポ山の統領の子供として生まれたのです。それに
あなたにはもう一人コポという弟がいます。弟様は隣のポポコン山に住んでいます。」
ポコはびっくりしてしまいました。おいらが じいさまの孫ではない?それにおいらには
兄弟がいる。では、おいらのおとうやおかあは?いったいどうしたのだろう。じいさま
からおいらが生まれてすぐ亡くなったと聞かされたけど・・・・あの恐ろしい山のことは
いったどうなってるんだろう?

ポコの頭の中で考えがグルグル回り始めました。
と、じいさまが急に泣き出しましたから、ポコはさらにびっくりしてしまいました。
「じいさま。泣かないで。おいらあまりにも急な話だったから驚いちゃったけど、
ちゃんと聞くから話しておくれよ。」

「あの日は・・・」じいさまは又話し始めました。
「あの日はとても天気のいい日じゃった。統領、つまりポコ様の親父さまとわしは
生まれたばかりのポコ様とコポ様の誕生会のことで話しておったんじゃ。・・・・
それまではポンポコ島は今のように離れてはおらなんだ。一つの島だったのじゃ。
突然、南から真っ黒な雲がやってきたかと思うや、あっという間にポンコポ山を
おおいつくしたんじゃ。そして、その雲の中からなんと狐族が襲ってきたんじゃ。
・・ポコ様もご承知のとおり、われら狸族と狐族は昔から争いが絶えたことがない。
じゃが、こんな雲に乗りこんで襲ってくることはなかった。」

じいさまは、その時のことを思い出したのかブルっと身震いをして話を続けました。
「風水の術を会得した狐族がおったんじゃ。風水の術は我が狸族が代々たった一人のみに
伝授していく術だが、どういう訳かそれが狐族に、しかもそれを戦いの道具にするとは!」
じいさまの頭からは怒りで湯気がでてきました。

ポコは詳しいことがもっと聞きたいので、じいさまをなだめました。
怒りがややおさまったのか、じいさまはまた話し始めました。

「そんなわけで、なんの準備もなかったから、我が狸族は戦いに敗れ、
全員あわててコポンポ山の方角に逃げ出したのじゃ。
だが後を追いかけてくる様子だったので風水の術をもったポポンが、
ポコンポ山とコポンポ山の間に大きな割れ目を作ったのじゃ。
それが、今こうして向こう側と深い谷によって分かれているという訳じゃ。」

ポコは、状況が次第にわかってきました。でも、気になることがあります。
「ねえ じいさま。おいらと その弟のコポはどうして離れてしまったの?それに・・」
ポコは一番気になることを思い切って尋ねました。
「それに おいらのおやじさまとおふくろさまは どうなったの?」

「ポコ様の親父様とおふくろ様は皆を逃がす為、最後まで戦いなさったのじゃ。
その後地面が割れてしまったので、どうなったのかわしもわからん。じゃが、
多分とらわれとなって あの ポンコポ山の牢にでも閉じ込められておられると思う。」
「ポコ様とコポ様をわしともう一人が抱きかかえ逃げる用意をしている時、親父様から
言われたのじゃ。3歳になるまではこのことは話さないでおくようにと・・・
そしてそれまで別々に面倒をみるようにとたのまれたのじゃ。」

「ポコ様、今まで本当に厳しくいってまいりました。でもこれはひとえにポコ様の
ことを思ってのこと、決して悪気があったわけではございません。どうかお許しください。」
ポコはここまで聞いた時、胸の奥深くからなにやら得体の知れない気持ちが湧いてきました。
「じいさま ありがとう。おいらを守ってくれて、それにおいらをここまで育ててくれて。」
「おいら じいさまの話を聞いて決心した。おいら あのポンコポ山へ行く!。」
「そして 親父さまやおふくろ様を助けに行く!」

このポコの言葉を聞いてじいさまは、しわくちゃな顔をさらにくしゃくしゃにし、
涙をいっぱい浮かべて、「おお それでこそ ポンコポ山の統領の息子じゃ!」
「おやじさまも、きっとよろこんでおいでじゃ。」「うれしや。うれしや。」と言って
また泣き出しました。

{やれやれ 今日のじいさまはよく泣くことだな。でも じっさいどうしたら向こう側に
行けるのだろう? それに 弟のコポに会いたいな。いっしょに行こうと言おう。
それに おやじさまとおふくろさまは本当に生きているのだろうか?どんな方だろう?}
次々と考えをめぐらせている時、一人の若者がじいさまの所に来ました。
「じいさま 用意ができました。」

おいおい泣いていたじいさまも、泣くのをやめき然とした態度となり、「わかった!」
と答え、若者を退けました。
「ポコさま、わしの後をついてきてくだされ。 よっこらしょっと。」
こう言ってじいさまはたちあがり、トコトコと歩き始めました。
ポコも黙ってその後について行きました。

つづく

【第五話ポコのはなし】

じいさまは、スタコラサッサと早足で歩き、ポポンコ山の頂上につきました。
そこには、この山に住むタヌキ全員が黙ったままで座っていました。
ポコがじいさまの後ろから歩いて行くと、みな頭を低くして挨拶をしました。
松の木の下に丁度手ごろの石があり、じいさまはそこにポコを座らせ、
おもむろに話し始めたのです。

「みなの者よう集まった。すでに知っておろうが、ポコ様が今宵3歳になられる。
これでポコ様も一人前のタヌキとして世を渡って行かねばならない。わしは
先ほど、ポコ様に今までのことをお話申し上げた。そしたら、あのポンコポ山へ
統領を助けにいかれるとのことじゃ。」

ここまで話した時、周りに集まっていたタヌキたちは一同に歓声をあげ、思い切り
それぞれのおなかをたたいたのです。
ポポポン、ポンポン。ポポンポン、いろいろの音が当りの山々にこだまして、それは
それはおおきな音になりました。

「ポコ様今宵はポコ様のお誕生日。みなして盛大にお祝いしましょうぞ。それ!
用意じゃ用意じゃ。」
それまでじっと座っていたタヌキ達は周りから、食べ物や飲み物を出してきました。
そうして宴会の準備をはじめました。

「ポコ様、皆の者に一言お話くだされ。」
じいさまはポコに言いました。ポコは立ちあがり皆を見回してから話し始めました。
「みんな、おいらはじいさまから、色んなことを今日聞いた。あまりのことで気持ちが
ふわふわしてるけど、・・・おやじさまとおふくろさまを ぜったいに助け出してくる。!」
「それに、おいらのためにお誕生会をしてくれてありがとう。」
「きっと ここに戻ってくるからね。」

「じいさま ありがとう。ここまでおいらを育ててくれて。
おいらが帰るまで絶対に待ってておくれよ。」
ここまで話した時、じいさまは大きな声で泣き出しました。

「じいさま。 う~ん しょうがない みんな はじめよう!」
タヌキたちは食べ物をまわし、飲み物をまわし、宴会をはじめました。
そのうち酔いが回ってきたのか、腹鼓や踊りをはじめました。

ポコは、はじめ皆とわいわい騒いでいましたが、つと一人になってあたりを見渡しました。
ポポンコ山は小さな山です。その横にはポポコン山があり、その隣にはすこしてっぺんの
とがったコポポン山があります。北の方をみるとそこには誰もが一度はいってみたいと
思っているポンポコ山、そしてその隣には三角お山のコンポポ山がみえます。
はるか遠くにはポコポン山そしてポンポコ山の陰になってポポンコ山からはみえない
コポンポ山、それに!断崖で離れているポンコポ山とポコンポ山の二ツ山・・・
ポコは思いを新たにしました。

飲んで食べて騒いで・・みんなはいつしか眠ってしまったようです。ポコは意を決し
誰も起こさないようにして、旅立つ事にしました。
{ありがとう じいさま、みんな}ポコは心の中で言い、ポポンコ山を後にしました。

つづく

【第六話コポのはなし】

もうすぐ寒い冬が来るというある朝のことです。
ポポコン山に住むコポは、いつものように 隣のコポポン山へ薬草を取りに出かけました。
ときおり、冷たい風がピューッとポコの体にあたってきますが、ただ黙って山に向かいます。

コポには弟や妹がいます。でもまだ狸暦1歳にもなっていません。
お父さんは、お母さんに食べさせる薬草を取りに出かけたままいまだに帰って来ません。

そう お母さんは今重い病気にかかっていて内で寝ているのです。
コポは来年、いよいよ3歳になり一人前のタヌキとなります。
実のところ、お母さんは本当の親ではないのです。ポコが生まれたばかりの時、
このポンポコ島に異変がおきて、遠くポコンポ山から一緒に逃げてきたと聞いていました。
その恩を忘れず、ポコはお父さんのかわりに薬草を取りに出かけているのでした。

いつものようにコポポン山のてっぺん近くで薬草を採っていると、そこに一人いいえイッピキの
年老いたたぬきが現れて言いました。「お前はポコか?」
「いいや おらはポコじゃねえ、おらはコポだ。」
すると そのおじいさんは「そうか ポコじゃないのか 違っておった・・そうか・・」なにやらぶつぶついいながら
行ってしまいました。
コポは{おかしなじいさんだ}と思いながら薬草を採って帰りかけました。と その時です!
どこからとなくたくさんの石つぶてがコポめがけて飛んで来ました。
コポは飛んでくる石をヒョイヒョイとかわし、その先を見ました。すると!なんと先ほどのおじいさんが石をなげて
いるではありませんか。
「おじいさん やめてくれ!何するんだ!おらはこの薬草をお母さんのところに届けなくてはならないんだ!」
「たのむでやめてくれ!」
コポは必死でおじいさんに言いました。するとそのおじいさんは、
石を投げるのをやめ、コポのところにやってきました。

「コポすまん、ちょこっと試させて貰った。やはりお前は誰かに戦のしかたを習ったな。」
「お父さんから教わったんだ。」
「そうか 父親か。コポよ、お前の生まれた時のことを誰かにきいたことがあるか?」
「うん 少しだけ・・・・・」
「お前には 兄さんがおるのをしっとるか?」
「いいや 知らない。おいらに 兄さんがおるのけ?」
「そうじゃ。お前が生まれた時、狐族との戦いで生き別れになった兄がおる。」
「まもなく程ほどにお前の所に現れるはずじゃ。」
「じいさまは どうしてそんな事しっとるのけ?」
「そのことは また後で話す。兄弟がそろった時、二人してもう一度わしのところに来るのじゃ。」
「それより 急いで帰れ! お前を育ててくれた母親のもとへ!さあ 早く!」

おじいさんのその言葉を聞き、コポは急に不安になり、でおじいさんにあいさつもそこそこであわてて山を降り、
草原のなかを一目散にポポコン山のお母さんのもとへと走り帰りました。

つづく

【第七話コポのはなし】

ぴゅ~・
冷たい風が吹き抜けます。

ぴゅ~~~・
コポの体にあたります。

コポよいそげ! いそげよ 母のもと

いつしか雪も降り始め、コポの顔にあたります。

雪よおいらの邪魔するな。早くお母さんのもとに行きたいんだ!

風よ!おいらを運んでおくれ。病気で寝ている母のところへ!

待ってておくれお母さん。今薬を持っていくから。

コポは走りました。コポポン山のてっぺんから一目散にポポコン山の母のもとへと——

どこか遠くで ”ぽ~~ん” はら鼓の音

「お母さ~~~ん」
コポは流れてくる涙をそのままに、走った走った・・・・・・・・・・・

入り口まで来た時、中にいた妹が飛び出してきた!
「わ~~ん。お兄ちゃん お母さんが、お母さんが・・・」
コポはあわてて母の所へ!

「お母さん。ほら薬だよ。今食べさせてあげるから、さあ お母さん食べて、
お母さんどうして食べないんだ。おいらせっかく採ってきたのに・・・・・・
さあ 食べてよ!お母さん・・・」
コポの声もむなしく響くだけでした。
お母さんは はるか遠く”タヌキ天国”へと旅立って行ったのでした。
「お母さ~~~~ん!」
コポは思い切り大きな声で叫びました。
「お兄ちゃん。お母さん最後までお兄ちゃんのこと言ってたよ。{もういいよ}って。」
「そして、最後にね、あるたけの力で腹鼓をならしたよ。お兄ちゃんに届けって。」

コポは聞きました。コポポン山から帰る途中、それはそれは見事なはら鼓の音を・・・・・

「お兄ちゃん。」弟や妹が寄って来ました。コポは悲しみをこらえ、兄弟を集めて言いました。
「さあ お母さんを送っていこう。」
コポたちは 枯れ木で作った格子の上に、お母さんタヌキを乗せ、ポポコン山のタヌキのお墓へと
運んでいったのでした。
「さあ お別れだ。お前たち 一番いい音を出せよ。」
コポたちは一斉にはら鼓を打ち鳴らしました。
ポン、ぽ~ん、ぽこぽ~ん!
コポたちの打ったはら鼓が、冬の訪れたポポコン山一面にこだましました。

冬も終わり、春の足音が聞こえてきました。
長い眠りからさめたコポたちは、すみかから一斉に飛び出しました。
新しい時代の幕開けです。コポは3歳となり、弟や妹たちは1歳になりました。

コポは弟や妹達にタヌキの世界のしきたりや、付き合い方などを教え込みました。
そうこうして一人前のタヌキとなっていくのです。

コポはあのお母さんが死んだ日、コポポン山で出会ったおじいさんの言ったことが、
少し気にかかっていました。
{あのおじいさんは おいらにどうしようと言うんだろう?}{「一緒に来い。」といってたけど、
どういうことなんだろうな?}

そんなある日の事でした。一人いえイッピキの若々しいタヌキがコポを尋ねてきました。
そしてコポにこう言いました。
「おやじさまとおふくろさまを助けに行こう!」と・・・・・・・

つづく

いががでしたでしょうか?
その1、その2、その3と、お話がすすんできました。
これからいよいよ ポコンポ山をめざし 進んでいくことになるのですが、
その前にまだすることがあるのです。
この続きは その4”コポポン山の仙人タヌキ”でお楽しみください。

【第八話仙人タヌキのはなし】

タヌキ暦13歳になるポポンは、相当年老いたタヌキです。
時折 ポンポコ山のはるか向こうに見えるポコンポ山とポンコポ山をながめては、ため息をついておりました。

実のところ、タヌキの世界では4~5年でその一生を終えるのがほとんどで、8~10年も生きているのは大変
めずらしいことです。そんなタヌキが13年も生きているというのは、まさにタヌキ世界では国宝級?な存在です。

さてさて話が少し横道にそれてしまいました。

賢明な皆さんは、”ポポン”という名前をお聞きになって{おや?}と思われたことと思います。
そうなんです。このポポンは、何をかくそう実は風水師なのです。ポコンポ山での狐族との戦いの後、
あちら側とこちら側の間に深い谷間を創ったのは彼なんです。でも、あれから早や3年・・・・・
ポポンはすっかり年老いてしまいました。もう後いくばくも力がありません。風水師としての力はもうありません。
その証拠にポポンのシッポにはもう赤いところは見当たらず、ほとんど白くなっておりました。

風水の力はタヌキのシッポにあります。タヌキ族に代々伝わるある儀式によりそれは受け継がれていくのです。
その力は、今から1年ほど前にひ孫のポン助に引き継がれました。

おや?ポン助?・・・そうです。このポンポコ島物語の その1 ポコポン山のポン助のお話の中に出てきましたね。
でも、ポン助は自分がまだ風水師なんてことはまったく知らないのです。ですからその使い方も力もわかりません。

そのポン助は狐族の黒雲に乗り、ポコンポ山へと向かったはずです。

ポポンは先だってこのコポポン山で出会ったコポという若者が、早く会いに来るのをまっておりました。
自分が生きている間にぜひとも伝えておく事があるからです。
この前、そのコポが薬草を採りにきた時、少し試しました。まさに彼はタヌキ族の戦士の一人だったのです。

つづく

【第九話仙人タヌキのはなし】

タヌキ暦13歳になるポポンは、相当年老いたタヌキです。
時折 ポンポコ山のはるか向こうに見えるポコンポ山とポンコポ山をながめては、ため息をついておりました。

実のところ、タヌキの世界では4~5年でその一生を終えるのがほとんどで、8~10年も生きているのは大変
めずらしいことです。そんなタヌキが13年も生きているというのは、まさにタヌキ世界では国宝級?な存在です。

さてさて話が少し横道にそれてしまいました。

賢明な皆さんは、”ポポン”という名前をお聞きになって{おや?}と思われたことと思います。
そうなんです。このポポンは、何をかくそう実は風水師なのです。ポコンポ山での狐族との戦いの後、
あちら側とこちら側の間に深い谷間を創ったのは彼なんです。でも、あれから早や3年・・・・・
ポポンはすっかり年老いてしまいました。もう後いくばくも力がありません。風水師としての力はもうありません。
その証拠にポポンのシッポにはもう赤いところは見当たらず、ほとんど白くなっておりました。

風水の力はタヌキのシッポにあります。タヌキ族に代々伝わるある儀式によりそれは受け継がれていくのです。
その力は、今から1年ほど前にひ孫のポン助に引き継がれました。

おや?ポン助?・・・そうです。このポンポコ島物語の その1 ポコポン山のポン助のお話の中に出てきましたね。
でも、ポン助は自分がまだ風水師なんてことはまったく知らないのです。ですからその使い方も力もわかりません。

そのポン助は狐族の黒雲に乗り、ポコンポ山へと向かったはずです。

ポポンは先だってこのコポポン山で出会ったコポという若者が、早く会いに来るのをまっておりました。
自分が生きている間にぜひとも伝えておく事があるからです。
この前、そのコポが薬草を採りにきた時、少し試しました。まさに彼はタヌキ族の戦士の一人だったのです。

つづく

【第十話仙人タヌキのはなし】

あの日、確かに戦士を見つけたのです。
これで 戦える!あの狐族を追い出す事ができる。早くそうなって欲しい!と思っていたポポンは年老いた体に
鞭打って準備をはじめました。

コポポン山のあちらこちらから、薬草を採ってきてそれを調合しました。調合といっても人間とはちがいます。
ただちぎってまぜるだけですが・・・・・山の隠し穴から武器も取り出してきました。そして最後に山のてっぺんから
ねむの木の枝を折ってきました。
これですっかり準備ができました。後はコポ達を待つだけです。

長い冬が終わり、春が来ました。14歳となったポポンは、もうあたりの景色もみることすら出来なくなりましたが、
ただ一途にコポたちが尋ねてくるのをまっていました。

空高くうぐいすが大きな声で鳴きました。
「こんにちは、おいら コポです。」
やってきました ポコとコポの二人がいえ二匹が!ついうとうととしていたポポンですが、その声を聞いたとたん
寝ていた体をキっと起こし「おお、早くこっちへ!」と大きな声で答えました
ポコとコポはその声をきき、ポポンのところにやってきたのです。
ポポンには二匹のりりしい姿がはっきりと見てとることができました。
「おお 待ちかねたぞ!」「お前たちは あのポコンポ山へいくつもりで来たのか?」
二匹はただ黙ってうなずきました。
「そこに道具や武器はすべてそろえてある。それを持っていけ!」
「お前たちは、お前たちの生まれた時のことはすでに聞いたと思う。お前たちの親父様とおふくろ様は
とらわれの身となって牢屋に入れられていると思う。一刻も早く助け出してくれ。それに 多分あちこちからつれて
こられたものたちが奴隷としてつかわれておる事と思う。もちろんその中には人間どもいる事と思うが、われわれ
タヌキ族とは昔より仲が良いからついでに助けてやってくれ。」

「われわれタヌキ族にはその昔より風水の術を持つものがおる。わしもその一人だったが、
今はポン助というものがその力を受け継いでおる。だが、そのものは自分にそんな力があることを
多分知らないと思う。お前たちとちがってシッポが真っ赤だからすぐわかるじゃろう。
ぜひ探し出し仲間に加える事じゃ。」

「キツネ族の中に同じように赤いシッポをもったものがおるはずじゃ。そいつを見つけ出しシッポを切り取るがよい。
そうすれば もう風水は使えなくなるはずじゃ。もともとはタヌキ族のみに伝わる術、
他のキツネが会得することはない」

「コポよお前は戦士の力を授かっておる。ポコよお前は勿論統領としての力をもっておる。お前の統率力でぜひとも
にっくきキツネ族を倒してくれ。そして 二度とこのポンポコ島に立ち入らぬように追い出してくれ。」

「ゴホゴホ・・・・ポコンポ山にいくのにはおいそれとはいかぬ。
ここよりはるか北、ポンポコ山とコンポポ山の間を通り抜けコポンポ山に行くがよい。
そこに小さな洞穴があるのでその中に入るがよい。その洞穴のなかは迷路となっておるが、
そこを上手に通り抜けてくれ。もしそこでつまずくと、外に放り出されてしまうから注意しろ。」

「ゴホゴホ・・・・・・・そこを通り抜ければ、目指すポコンポ山じゃ。む!・・・・・」

「じさま!」

「ゴホゴホ・・・・・・大丈夫じゃ。ゴホゴホ・・・最後になったが、このねむの木を渡す。
これは向こうについたら使うのじゃぐるぐるとまわすとたいていのキツネたちは眠るじゃろう。
だがそれ以外のところでは使うな!皆寝てしまうからな。」

ポポンはあるたけの力を出し切りポコとコポに話しました。
二匹の若者はポポンの話を聞き終えコポンポ山へと向かいました。まずは迷宮を通り抜けなくてはなりません。

二匹のたくましい姿を瞼に焼き付け、ポポンは静かに深い眠りにつきました。

つぎへ

いががでしたでしょうか?
ここまで来たらあとは一目散にポコンポ山に向かうだけですが
お話の中にもあったように、コポンポ山は迷宮になっているみたいです。

本来ならばここで第十一話となるのですが、物語は迷宮を通らないと次に進めないような構成になっています。でもここでは、その構成通りに進めないので、「ポンポコ島ものがたりその2」として記述します。では、ポンポコ島ものがたりその2をおたのしみに。

②ポンポコ島伝説第一巻

始めに、このポンポコ島伝説はホームページ「工房音絵夢ing」で書いています。一種のロールプレインのような形式で作り上げました。このwordpressに持ち込むことができませんのでURLを貼り付けました。どうぞ下↓のマークをクリックしてお入りください。

ものがたり・後向きの観音様

はじめに

美濃加茂市の中富町に霊泉寺というお寺があります。
そこには、この物語の題材となった <うしろを向いた観音様>が
100体の石仏にまじっておいでになります。
寺のご住職様に伺ったところ、どのようにしてこのような観音様が
お見えになるかは、文献なども無いためわからないということでしたが、
一説によりますと、
この観音様は実はキリスト教の聖母マリアの像ではないかとのことでした。
江戸時代においてキリスト教が弾圧されました。そんな中、信者は
観音様の像にマリア像を隠して信仰していたのではないかと推測されます。
このお話はそんな観音様を題材にしてつくりました。

むかしむかしのそのむかし
国のあちらこちらに 34人の観音様がいらっしゃいました。
観音様は苦しみや悲しみ、辛さや、痛さから人々を救うため
毎日毎日忙しく働いていらっしゃいました。
そんなある日のこと
観音様におふれが回り108年ぶりに皆して会うことになりました。
観音様は雲に乗ったり、風に乗ったり、ある観音様は龍に乗ったりして
それぞれ天上界の蓮の花の池に集まっておみえになりました。

「おやおや 私が一番のりかな。」
六時(ろくじ)観音様がそうおっしゃって、雲から降りられました。
「いいえ 私が一番ですよ。」
蓮の花の向こうから声がしました
そこには多羅(たら)観音様がおいでになりました。
「おおや 多羅観音さま。相変わらずおきれいでいらっしゃいますな。」
「まあ 相変わらずお口のおじょうなこと 六時観音様。」
「ははは ところで他の方たちはまだお着きになっていないようですね。」
「はい もうまもなく皆様おいでのことと思いますよ。」

「やあやあ お久し振りで。」
円光(えんこう)観音様がおいでになりました。
続いて白衣(びゃくえ)観音様、施薬(せやく)観音様・・・・と
観音様はつぎつぎと池の周りにお集まりになりました。
池の蓮の花の周りで挨拶やら、お話やらがとびかっておりました。

「みなさん おひさしゅうございます。」
「100と8年ぶりに一堂に会し、それぞれ地上界でのご苦労に
少しでも報いる為、お釈迦様にひと時のお暇をお願いをして
こうしてお集まりを戴きました。」
楊柳(ようりゅう)観音様が、こうお話をはじめられました。
池の周りに集まっておられた観音様がたも、楊柳観音様の方を
それぞれおむきになり、じっと耳をかたむけておられます。
「全員お集まりのことと思いますが・・・」
ここまでお話になり、四方を見渡しますと、
「おや? お一人いらっしゃられないぞ・・・。」
それを耳にした観音様たちも一斉にまわりをご覧になりました。
「本当だ。どなたかな?」

「ああ あの私どもと違う国よりおいでになられた・・・」
「おお マリア観音様か あの方がまだお見えになられていない。」
「いろいろと気をお使いなのではないのでしようか。」
「そのようですね。」
観音様がたはそれぞれにお話をされていました。
「おっつけ いらっしゃると思いますので、それまで皆さんごゆるりと。」
こう楊柳観音様がこう言われますと、観音様方は池の辺りにそれぞれと
お集まりになり、語らいをおはじめになりました。

皆さんはここで”マリア観音様”と言う耳慣れない観音様のお名前を
聞きました。
そうです。この観音様は実は本当の観音様ではありません。
この物語の本編はここからが始まりです。

慶長19年(1614)江戸幕府は、
キリスト教が幕藩体制をゆるがすことを恐れキリスト教禁止令を出しました。
その後諸藩に”宗門人別帖”を作成させ、キリシタンでないことを証明する為に、
人々はどこかの寺の檀家にならなければならないようにしました。
ここ美濃の国の下古井村においても、
同じように村の人々を厳しく取り締まっておりました。

ある寒い冬の日のことです。
一人お旅の人が、ここ美濃の国の下古井村を通りかかりました。
丁度定吉の家の前まできた時、
そのたびの人はバタリと倒れこんでしまいました。

「お前さん、誰か外で倒れちまっただよ。」
定吉は女房のおみよの声で、外に出ました。
そこには一人の見知らぬ人が倒れこんでいます。
「どうなさったんじゃ?」
定吉は尋ねましたが、返事がありません。
それより、荒い息をしています。
定吉は頭に手をあてました。
「いかんおみよ床をしいてくれ。すごい熱じゃ。」
「あい わかったよ。」おみよは急いで寝床をしきました。
と言っても定吉の家は大層貧乏で寝床といっても、
わらで編んだムシロにわずかばかりの布をかぶせたものでした。

おみよは井戸から水を桶に汲み、手ぬぐいに水を浸し、
その人の頭に置きました。
「おまえさん どうしようかの?医者なんぞよべねえぞ。」
「薬だってないぞ。」
「どうしよう 五軒組にとどけるべえか?」

その当時幕府は農民などを支配する為に、だいたい五軒の家を一組にし、
お互いに助け合ったり監視しあったりする組織(五軒組:五人組)を作りました。

「いいや、そんなとこ届けるとこの人は、無宿人として外に出せというに
きまっちょる。そんなことしたらこの人は死んでしまうぞい。」
「こそっとしとこ。治ったらまたこっそと出てもらえばええから。」
「そうじゃねえ そうしよか。」
定吉とおみよはそういってこの行き倒れの人をかくまうことにしました。

ふたりが必死で看病をしたのがよかったのか、その人の熱もさがりました。
「よかったよかった もう大丈夫じゃろうて。」
「おまえさん お湯をわかしておくれ。この人の体をふいてあげるから。」
「わかったぞい。」
定吉はカマドに薪をくべ火をつけました。
パチパチ火がつき、やがてお釜の水がお湯になりました。
「おみよ お湯がわいたぞ。」「ほれ 桶と手ぬぐいじゃ。」
「あいよ おまえさん。」
「着物を脱がせるから手伝って・・・・・・。」そういいかけておみよはハっとしました。
てっきり男の人と思っていましたが、この人はなんと女の人だったのです。

「おまえさん ちょっと外へ出ておくれ。」
「どうしてじゃあ?今手伝ってっていったんじゃないのけ?」
「おお いったけんど、だめじゃ この人は女のひとじゃ。」
「なんと!あまりにも汚れていたので気がつかなんだわ。そうか 女の人か。」
定吉はこうつぶやくと家の外にでました。

ピューピュー 外は北風が吹いています。夜の空には零れ落ちんばかりの星が
輝いています。寒い冬の夜でしたが、どういう訳か定吉は幸せな気持ちでした。

「おまえさん もういいだよ。それに気がついただよ。」
おみよの声で定吉は家の中に入りました。
「おお!」
定吉は思わず大きな声をあげました。
着ている着物はとてもみすぼらしいものでしたが、
おみよに拭いてもらったその女の人の顔をみた定吉は
信じられない気持ちでいっぱいでした。
とてもこの世の人の顔とは思えなかったからです。

「ありがとう」
その女の人は定吉とおみよにお礼をいいました。
「なんの 困った時はお互い様じゃ。それより おなかが空いたじゃろう。」
「なんもないが ・・・おみよなんぞねんか?」
「少しばかりヒエがあるけん、それを粥にでもしようかの」
「ここに一粒のお米があります。これも加えてください。」
女の人は懐から一粒のお米を出しました。
定吉とおみよはたった一粒のお米だけど、それをなべに加えました。
「それにこれは菜の葉ですが、これで采汁でも作ってください。」
同じように懐からよれよれによれた菜の葉を取り出して、おみよに渡しました。
「すいません。」
おみよはその菜の葉をなべに入れ、采汁を作りました。
ほどよく二つのナベがグツグツといいはじめ、おいしそうな匂いがしはじめました。
「さあ たべよかの。」
定吉がナベの蓋をとりました。
すると!
なんとなんと!ヒエのお粥はそれは美味しそうなお米のお粥になっていました。
そして、菜汁は中身の一杯詰まった采汁になっておりました。

「こ これは不思議じゃ。どうしたことか?」
すると 女のひとが言いました。
「これは私のほんの感謝の気持ちです。いくら食べてもなくなりませんので、
どうぞおなか一杯召し上がってください。」
「これは不思議じゃ。いったいこれはどうしたことじゃ?」
定吉は再びいいました。

「定吉さん、おみよさん、ありがとう。実は私はこの国の者ではありません。
異国から新しい教えを説きにやって来たものです。途中少し具合が悪くなり、
お二人にご迷惑をかけてしまいました。この国ではまだ私共の神のお教えを
わかってくれる人がおりません。でも安心しました。この国にも定吉さんや
おみよさんのようにやさしい心をもった人がいるのがわかりましたから。」
「この世は殿様も百姓もすべて人として平等です。そして、どんな辛いことや
苦しいこと、悲しいことなどがあっても、今日のこの1日に感謝し、明日を信じ
自分をしっかりみつめて暮らしていけばきっと幸せになれます。
定吉さんもおみよさんも明日を信じて暮らしてください。」

「定吉さん、おみよさん。あなたがたには子供がおりませんね。
随分まえからほしがっていたでしょう?授かりますよ必ず。」

定吉とおみよはその女の人の話をポカンと口をあけて聞いておりました。
「さあ もう行かねばなりません。このままでいるとあなた方にどんな災いが
降りかかるかも知れませんからね。本当にありがとう。」

その女の人はすくっと立ち上がりました。
するとその女の人の体からなにやら明るい光がで始めました。
そうして次第に天井の方へとのぼっていき始めました。
「あ あの あなた様のお名前は?・・・。」
「マリアといいます。」
その声と同時に、女の人は二人の目のまえから消えてしまいました。

あれ以来ナベの粥は食べても食べてもいっこうにへりません。
「のう おみよ。あの方はなんだったんじゃ?」
「あれか あれはきっと観音様じゃ。」
「そうじゃのう あのお方は観音様じゃのう。」
「あの方が言われたとおり、このおなかのなかに子供も出来たし・・・」

そうなんです。定吉とおみよには赤ん坊が授かりました。
「でも 普通の観音様とちょっと違うわな。」
「そうじゃのう でもわしらにとってはやっぱり観音様じゃ。」
「どうじゃろう あのお方の像を作ってお参りしようかの」
「そうじゃ それがええのう。」

二人は観音様の石像をつくりました。
そして二人は毎日毎日一心にお参りしました。

そんなある日のことです。

お役人が定吉の家にやって来ました。
「定吉とおみよとはお前たちか?」
お役人はいばってたずねました。
「はい わたくしたちです。」
定吉は恐る恐る答えました。
「その方たち、先だってバテレンをかくまっただろう?」
「いいえ そのようなことは・・」
「だまれ!ある者から訴えがあったぞ!隠し立てするな!」
「いいえ けっして」
「お前たちはキリシタンだろう!」
「いいえ 違います。」
「だまれ!だまれ!ではこれはなんじゃ?」
お役人は二人が作った観音様を指差していいました。
「これは 観音様です。」
「ばかもの!こんな観音様があるか!」
たしかに、普通の観音様とは少しちがっておりました。
この観音様は両手に子供をだいておられたのです。
二人が返答に困っていると、
「二人に縄を打て!」「ひったてろ!」

こうして二人は牢にいれられてしまったのでした。
定吉の家には この観音様だけがポツンと残りました。

どの位の月日がたったのでしょう。
定吉とおみよはようやく牢から解き放なたれました。
二人いえ、おみよの腕のなかには男の子がおりました。
赤ん坊が牢で生まれ、その泣き声があまりにも大きく
番人たちがほとほと困り果てたからでした。
二人はつかれた足取りで我が家に戻ってきました。
幾月か人の住んでいない家は、朽ち果てるのも早いのですが、
定吉の家に限ってはあの時のままでした。
それに、あのナベのお粥も・・・・・
「よかったのう おみよ。戻ってこれたわい。」
「ほんに お前さん よかった。わし ずっと祈ってた。」
「おらもじゃ。 ずっと この観音様のこと 祈ってた。」
「この観音様が この家とわしたちを救ってくださったんじゃ。」
「ありがたや。ありがたや。」
二人は一心にお祈りをしました。

と、その時です。

二人の前の観音様が こう言われました。
「定吉さん おみよさん ありがとう。でも かえってあなたたちに
迷惑をかけてしまいましたね。このままでは 又二人に被害が及ぶやも
しれません。私はこういたします。」
なんと 観音様は後ろ向きになっておしまいになりました。

「大変に遅くなりました。皆様ごめんなさい。」
池のまわりで語らいでいらっしゃった観音様たちは、
その声で一斉に静かになられました。
「マリア観音様、よくお出でになられました。」
楊柳観音様が皆を代表していわれました。
「皆様 せっかくご親切にしていただきましたが、やはり
私は 皆様とは少し住む世界がちがうように思われます。
ですから、ここで皆様とはお別れしとうございます。」
マリア観音様がこう言われますと、一斉にどよめきがおきました。

「けれど、私が人々を思う気持ちと皆様が思う気持ちにはちがいなぞ
あろうはずがございません。わたくしは これからも地上界の人々の
ために努力をしていこうと思っております。」
こうお話をされますと、あちらこちらから拍手が沸きあがりました。
「マリア観音様がおっしゃるとおり、人々を思う気持ちは同じです。
マリア観音様がどうしてもと言われるのなら、お止めは致しません。
お好きになさってください。」
「ありがとうございます。」

こうしてマリア観音様は他の観音様とお別れになったのでした。

むかしむかしのそのむかし
この国には33人の観音様がおいでになりました。

おしまい

ものがたり・小山の世話人

小山の世話人

はじめに

美濃加茂の小山(こやま)に小山寺(しょうさんじ)という寺があります。
飛騨川が木曾川と交わるほんの少し手前、川の中ほどに島があります。
ここに小山観音として知られる堂宇が建っています。
昔は陸続きだったそうですが、今はダムのために渡り橋がついています。

いまから約800年以上前のことです。
木曾義仲の母の若名御前が京に上る時、この辺りで病没したとのことです。
そのことを悼んで義仲が、この地に堂を建てたとの言い伝えがあります。
今回はこのことを基に製作しましたが、史実とはなんら関係がありません。

むかしむかし そう、今からかれこれ600年位前のことです。
鎌倉幕府が滅亡してその後、足利尊氏が室町幕府を開きました。
1467年(応仁元年)権力争いから応仁の乱が始まりました。
いずれにしても、このお話とはあまり関係がありませんが・・・・

ここは 美濃の国、上古井村の牛ケ鼻(現天狗山)の下に飛騨川は流れています。
この川は米田郷の下・小山で木曽川と合流します。
その為にこの辺りは度重なる水害で人々は苦労していました。
この川の中ほどに 小さな島があり、そこにはお堂が建っています。
このお堂はこのお話よりさらに200年ほど前に、木曾義仲が母の
霊を慰めるために建立したといわれています。
このお話は、このお堂にまつわるお話です。

「お留とめ、だいじょうぶか?お福ふくお前もええか?」
「ああ わしはだいじょうぶだ。それより おっとお
お前様はええかね?お福だいじょうぶか?」
「櫓を放すでねんぞ!」
「わかってるだ、それよりおっとお 舵をしっかりたのむぞい!」
お留と捨吉は荒れ狂う飛騨川を舟で太田の郷に向かっていました。
舟の中には 生み月を迎えたお福が、青い顔をして座り込んでいます。
あいにくと 川辺の郷の産婆がすべて出払っていて
やむおえず舟で太田の郷へ向かうことになったのです。
この小山の近くまで来た時です。晴れていた空が一転にわかに暗くなり、
雨風が吹き荒れてきたのです。
この先は木曽川との合流地点です。
川はより一層荒れ狂うことは間違いありません。
「困ったのう。あと一息じゃというのに。」
捨吉は舵を取りながら言いました。
牛ケ鼻の下ぐらいに来た時です。
目の前に 小さな島をみつけました。
「おお、あそこに一先ず 舟を着けよう。」
捨吉は舵を小島の方向に向けました。

やっとのことで小島にたどりついた 捨吉は
まずはじめにお福を舟から降ろしました。
そうして お留と二人して 舟を留めていた時です。
ふとしたはずみで、櫓を流してしまいました。
「あ~~っ」
捨吉は慌てました。櫓がなくては舟はこぎだせません
「わしが取ってくる!。」
とっさに、お留は自分の体に縄を巻き、
「おっとう しっかり持っててな!。」
と言って 荒れ狂う川に飛び込みました。
「おい! お留 むちゃすんな!。」
捨吉はお留を止めようとしましたが、その時は
すでに お留は川の中です。
捨吉はしっかりと縄の先を持っていました。
どの位たったでしょうか
捨吉が伸ばしていた縄は後がなくなりました。
「もう待てねえ。」
捨吉は縄をどんどん手繰たぐり寄せました。
・・・・・・!
なんと 縄の先には お留ではなく 櫓がしばってありました。
「お留~~~~っ!。」
捨吉は声の限り叫びましたが、お留の姿はどこにもありません。
「・・・お留・・・お留・・・」
捨吉はうつろな眼でつぶやいていました
「おっとお、おっかあ、いたい!おなかがいたい!。」
気が付くと お福がお堂の所でくるしんでいます。
捨吉は途方とほうにくれてしまいました。
「あ~あ こんなときに婿の吉松は何処どこ行った!?」
「いったいよ~~!。」
お福はますます苦しみだしました。

祠のなかには観音様が祭られていました。
「観音様、どうか お福を助けてください。お願いします。」
捨吉は必死で観音様に手を合わせました。
「おら 何も出来ねえ。おら 観音様におすがりするしかできねえ。」
「お福を助けてくださるなら、おらどんなことでもいたします。」
その時です、どこからか 声がしました。
{あい わかったぞ}
おぎゃ~~~
どのくらいたってたのでしょう。
捨吉は、赤ん坊の泣き声でわれにかえりました。
お福をとみると・・・・
男の赤ん坊を抱いていました。
「お福!だいじょうぶか?」
「おっとう だいじょうぶだ。一時くるしかったけど
すぐらくになったでな。」
「そうかそうか よかったよかった。」
「おっとう おっかあは?」

捨吉は今までのことをお福に話しました。
「うそじゃ!おらが苦しんでるとき、ず~と手をにぎって
だいじょうぶだ・もうすこしだって話してくれたのに・・・」
捨吉は ハッとしました。
「観音様じゃ!観音様がお福を助けて下されたんじゃ」
「ありがたや ありがたや」
捨吉は何度も何度も 観音様にお礼を言いました。
その時です またもどこからか 声がしました。
{やくそくじゃぞ・・・}

・・・・あれから 一年
お福と吉松それに留丸と名付けられた男の子が
小山の観音様の前に立っていました。
捨吉はあれ以来すっかり元気がなくなり、家でぼんやりしています。
「観音様 あの時は本当に有難うございました。」
「お陰様で ほれ こんなに元気な男の子になりました。」
「あの時、おっかあの代わりをしていただきました。
でも・・・おっかあは・・・・。」

「ばぶばぶばぶ。」
留丸が指差したほうを何気なく見たお福は
「!・・・」
「おっかあ・・?」
「なに!おっかさま?」
吉松も留丸が指差したほうを見ました。
「おっかさま!。」
そこには 忘れもしない お留の姿がありました。
でも お留はこの三人のことなど気にもとめず、お堂のまわりの
掃除をしています。

どうやら お留は記憶をなくしたみたいです。
何度話しても知らない知らないと言うばかりです。
吉松は急いで捨吉を呼びに行きました。
「なに! お留が生きてる!?」
捨吉は駆けつけました。が、
やっぱり お留は知らないというばかりです。
「お留 おらじゃ 捨吉じゃ。」
・・・・・どうも 思い出す気配はありません。
その時 どこからか 声がしました。
{捨吉 わたしとの 約束じゃ このお留は わたしの世話人
としていただいたぞよ}

捨吉は思い出しました。あの時 観音様にお願いしたことを・・
「お福、吉松、おらは ここに 残る。」
「おらは あの時観音様と約束をしたんじゃ。こうやって
お留が生きていた今、おらも このお堂の世話人として、
お留と一緒にここに居る。」

これ以来 この小山の観音様でお堂のお世話をする 年老いた夫婦が
暮らしたとのことです。
ふたりは いつまでも いつまでも 仲むつまじくお世話をしたとの
とのことです。
でも、お留の記憶が戻ったかどうかは、わかりません…・

おしまい

ものがたり・姫街道

はじめに

この作品を作るにあたり 美濃加茂市 発刊・美濃加茂市教育委員会編集の
”市民のための美濃加茂市の歴史”を参考にいたしました。

慶長5年(西暦1600年)、徳川家康が関ケ原の戦いで勝利を得、
それから3年後江戸に幕府を開きました。
幕府は、江戸を中心とする5街道:東海道・中山道・日光街道・奥州街道・
甲州街道を整備し、公家や諸大名の往来を円滑にするようにしました。
5街道の内の中山道は、東海道の裏通りとも言われ、
東から武蔵・上野・信濃・美濃・近江の5ケ国を通りました。
宿67のうち16宿が美濃の国におかれました。
その内の一つ、太田の宿は出発点の板橋宿より51番目にあたります。

{木曾のかけはし太田の渡し碓氷峠がなくばよい}

このように歌われた太田の渡しは、中山道の三大難所の一つでした。
もちろん 歩いてわたることなど到底出来ず、舟でわたるにしても、
その時々にかわる水の流れに気を使わないと、転覆の憂き目に遭うことが
よくあったそうです。

このお話は、そんな背景があることをご理解の上、ご覧下さい。
例によって、史実とはなんら関係がありません。

むかしむかし、そう今からかれこれ400年ほど前のことです。
関ケ原の戦いで勝利を得た徳川家康は3年後、江戸に幕府を開きました。
天下の安定を計るため家康は、諸大名の妻や子女をいわば人質として
江戸に住まわせ、謀反を防ぐ政策をとりました。【参勤交代の制度は
寛永12年(西暦1635年)に確立されました。】
中山道は又の名を姫街道とも呼ばれ、多くの姫が大行列をなして通行した
とのことです。・・・・・

近江の国元を離れ、江戸屋敷に向かう玉姫はまだ幼少9歳でした。
江戸までの道のりはまだまだ遠く、少しばかりうんざりしてきました。
もともと玉姫はじゃじゃ馬娘で女中や腰元はいつもハラハラしていました。
玉姫一行は(江戸から数えて)中山道51番目の宿・太田の宿に到着しました。
今夜はこの宿で泊りです。玉姫一行は本陣の福田家に入りました。
おりしも今日は太田の町の夏祭り、あちらこちらから、笛やら太鼓の音が
聞こえてきます。
玉姫は嬉しくなってきました。付け人のお初と二人きりになって、玉姫は
思いっきり手足をのばし、大きな背伸びをしました。
「玉姫様、なんとはしたないお姿、たれぞ見てるかもしれませぬ。お気を
つけあそばせ。」
お初はこう言って玉姫をたしなめましたが、一向に気にせぬようすでもう一度
大きなあくびをしました。

「の~うお初」
玉姫はお初に話し始めました。玉姫がお初に対して「の~う・・・」と
切り出したときは、たいていやっかいな事を言い出すときでしたので、
お初はつっと立って後片付けをしようとしました。
「の~うお初」
玉姫はお初のすぐ前にきました。こうなると無下に知らぬ顔はできません。
「はい 姫様」
「この宿は何やら騒がしいのう。」「私はこんな騒がしいところはいやじゃ!」
玉姫は、まるっきり反対の事を言いました。お初も心得たもので「はい 姫様
まったくその通りです。遅くなると もっと騒がしくなるやもしれませぬ。
早うお食事をされまして、お眠りなされませ。」
「の~うお初」
「はい 姫様」
「今宵 少しだけ 外に出向こうぞ」
「ダメでございます。玉姫様は大事なお体。もし何ぞあったときには一大事で
ございます。ここは近江のお城ではございませぬぞ」
お初はこう言って諭しましたが、すでに玉姫の心は本陣の外・・・・・
一向に聞く気は無いようです。お初はあきらめ玉姫に言いました。
「そのお姿では目立ちまする。私が町娘の衣服を取り揃えて参りますので、
それまでお待ちくだされませ。」
玉姫は一層うれしそうな顔をしていました。
「町の娘のすがたになるのか。これは楽しみじゃ。お初早う用意してたもれ。」

中元に少しの金子を渡し、内密にするよう話したお初は、玉姫と二人して
こっそり夜の太田の町へと出かけました。
町のあちらこちらでは、少々お酒の入った男たちが大きな声で笑いあって
いました。笛や太鼓の音が大きくなり、その周りでは男や女子供が輪になって
なにやら踊っています。
「お初 あれはなんじゃ?」
「はい姫様 盆踊りにございます。」
「盆踊り?私もやってみたい。」
「無理でございます。」
「でも やりたいのじゃ。」
そう二人してやりとりをしていた時です。フッと姫が誰ぞやに抱きかかえられ
ました。あっと思ったときです。抱きかかえた男が言いました。
「さあさ おじょう 何だかんだって言ってないで、入った入った。」
男は玉姫を輪の中にいれました。
最初は少しばかりまごまごしていましたが、その内に玉姫は上手に踊るように
なりました。ハラハラしてみていたお初でしたが、玉姫の余りにもうれしそうな
顔を見て、なんだか急にかわいそうになりました。
それはそうです。玉姫はまだ9歳。父親である殿様、母親である奥方様と別れ
単身江戸表の屋敷に出向くのです。いくらこれが世の慣わしとは言え、
これで今生の別れになるのかもしれません。
お初はできるだけ玉姫のやりたいようにしてあげようと思いました。

その後、町のあちらこちらを見て周り、玉姫とお初は本陣へ戻りました。
踊りつかれたのか、歩きつかれたのか、玉姫は軽いいびきをかいて眠って
しまいました。お初もドッと疲れがでたようです。早々に眠りにつきました。

どの位たったでしょう。
ピカッ・ガラガラドドーン
すさまじいカミナリとともに雨が降り出しました。

ここは太田の宿・

{木曾のかけはし太田の渡し碓氷峠うすいとうげがなくばよい}

こう歌われた太田の渡しはこの先あと少しのところです。
昨夜の雨で水嵩は増えていました。
太田の渡しは木曽川を渡るのですが、この少し上流の小山あたりで、
木曽川は飛騨川と合流するのです。その為か水嵩は深く、
とうてい人が歩いてわたれるわけがありません。
舟で渡るにしても、その時々の水の流れをよく見極みきわめないと、
転覆の恐れがあります。
この日の水嵩は川止めにするかしないかの微妙なところでした。が、
舟かしらは思い切って舟を出すことにしました。
「川渡しじゃ!川渡しじゃ!」
舟かしらは大きな声で他の船頭に指示をだしました。

その当時、単に川を渡ると言ってもそれは大変な作業でした。大名等を渡す船
(この船は渡賃を取らなかったとの事です)・渡船とで多い時は2000人前後の
人々や荷物をおおよそ15人ほどの船頭で渡したとの事です。
むろん、一般の旅人等はこの渡しの後になったようで、
当時の旅の時間の流れは本当にのんびりしてたように思います。

・・・・・話が少し横にそれました。

玉姫たちは無事に向こう岸の土田へと着きました。行列の後はまだまだ川を
渡っています。渡し船は何度も行き来を繰り返していました。
玉姫は籠の中で待つ間少しうとうととしていました。・・・・・・・・突然!
「わあ 転覆てんぷくじゃあ。」「おーい船がひっくり返ったぞーっ。」と言う声が
しました。行列の一行は川の中を覗きました。
2隻の船が川の中ほどで転覆しています。
乗っていた家来の侍や、荷物は川に投げ出されてしまいました。
落ちた人を助けるもの、荷物を拾い上げるもの、もうてんやわんやです。

・・・・・・・

ようやくのこと、太田の渡しを渡りきった玉姫の一行は
「ご出立~っ。」
かけ声とともに行列をなして、伏見・御嵩へと向かいました。

玉姫たちの行列が、太田の渡しをなんとか渡りきり、伏見のほうへ出立した後、
ここ、土田の渡し場には太田の宿へと向かう二人の女小娘が船を待っています。
で、よ~くみるとそれはなんと!玉姫とお初ではありませんか!
いったいこれはどうなっているのでしょう?

ここで、少し時を戻ります。

あの渡し船の転覆の時、玉姫は一計を案じました。
皆が転覆のためにあわただしく動いているとき、お初に無理やり籠から降ろさせ、
町娘の姿になって、も一度あの盆踊りをしてみたいと言い出したのです。
お初は始め大反対をしたのですが、いつものこと聞き入れてはくれません。
お初も、前にお話したように玉姫を不憫に思っていましたので、早籠で後から
追っかければ、なんとかなると考えました。
で、身代わりとしてすぐ傍にいらっしゃったお地蔵様を、なんと玉姫とお初に
見立てたのでした。
そうとは知らぬ玉姫の行列はお地蔵様を乗せて伏見・御嵩へと
向かったというわけです。

玉姫とお初が太田の宿へ戻ろうと渡し船に乗り、川の中ほどにさしかかった
ときです。
突然、大きな川波が二人を飲み込んでしまいました。それはあたかも龍が
襲いかかったみたいでした。

話変わって、
身代わりとなったお地蔵様をのせた玉姫一行が、道中御嵩みたけの宿にて
休息を取ることになりました。
籠を停め、女中が玉姫の籠に向かって言いました。
「玉姫様、ここで一先ずご休息を、お履物をご用意いたします。」
「・・・・・」
へんじがありません。
「玉姫様?」
「・・・・・・」
やはり返事がありません。女中は少し不安になりました。
「玉姫様、ご無礼つかまつります。」
といって、籠のかぶりを開けました。
! なんとそこには玉姫ではなくお地蔵様が乗っていらっしゃるではありませんか。
女中は、驚いて思わず、「ひえ~っ」と叫んでしまいました。
家来たちも駆け寄ってきました。
籠のまわりを囲んで見ていますと、やおらお地蔵様が立ち上がり
「やれやれ、見つかってしまったぞ。」と言ってスタコラサッサと土田の渡しに
むかって走り出しました。
続いて、お初の乗っていた籠からも、もう一人のお地蔵様がやっぱり
スタコラサッサと土田の渡しに向かって駆け出しました。

玉姫の家来一同はあっけにとられ、ポカンとみています。
ふと、気が付いたけらいが、「追いかけるのじゃあ~。」と叫び、お地蔵様の
後を追いかけだしました。
家来たちもあわててその後を追いかけ始めました。

お地蔵様と、玉姫の家来たちはまるで追っかけっこのようにして、
土田へ戻ってきました。
お地蔵様がいらっしゃった祠までくると、
なんと玉姫とお初がお地蔵様の身代わりとなって祠の中に立っているではありませんか。
家来たちは二度びっくり、あわてて 玉姫たちを揺ゆり起おこしました。
「玉姫様、玉姫様・・・」

「玉姫さま、玉姫様・・」
玉姫はふっと目が醒さめました。
「長らくお待ちいただきました。ご出立です。」
なあ~んと、玉姫は籠の中で夢をみていたのです。
ほんの一時の淡い夢、それはちと変わってはいましたが、
盆踊りがしたい一心からだったでしょうかそれとも・・・・・

「ご出立~っ」
こうして、玉姫の一行は江戸への長旅についたのでした。
この中山道はこのような お姫様を乗せた行列が、
いくつもいくつも通り過ぎたのでしょう。
姫街道といわれる所以はここにあるのでしょう。

おわり

ものがたり・天狗の美濃吉

はじめに
美濃加茂市の古井町に天狗山と言われる小高い所があります。
その昔はここを、竹ケ鼻と呼んでいたそうです。
現在、この天狗山には天狗を神様とする荒薙教がありますが、
例によって、このお話は何ら関係がありません。

上古井村の美濃吉は、まだ十歳だと言うのに 背の高さは6尺(約1.8m)もあり
体重はなんと30貫(約120キロ)もあるそれはそれは大きな子供じゃった。
そんなずうたいなので、いつもいつも「おっかあ はらへったよ~」って言っておった。
なにせ おひつ一杯のご飯と、おなべ一杯の汁をペロリと食べてしまい、
その他にも芋やらとうもろこしやらをパクパクたべておった。
その代わりと言うか、チカラだけはそんじょそこらの大人でもかなわない。
この前なんかは牛車がぬかるみにはまってしまって身動きできないのを、
牛ごと抱きかかえてそのぬかるみからだしてしまったし、
庄屋さまの家の普請の時なぞは、お蔵ごと担いで動かしたほどじゃ。

この上古井村は年に一度すもう大会があるんじゃけんど、
いつも美濃吉は一番じゃった。
だが今年は噂を聞きつけ、大田村や加茂野村、
はたまた勝山や遠くは久田見村などからも力自慢の男たちが集まってきたんじゃ。

子供ずもうから始まり、取り組みが次々とすすんで美濃吉の取り組み頃になると、
あちこちにちらばっていた人々は土俵の周りにどんどん集まってきたんじゃ。
なにせ今年はよその村の強力男が幾人も美濃吉と勝負しに来ておったからじゃ。
この男たちをみて今年の美濃吉は一等にはなれんじゃろうと誰もが思っておった。
じゃがひょっとかすると・・と言う気持ちもあったので、
皆固唾を飲んで待っておったんじゃ。

美濃吉の名前が呼び出されると人々から一斉に大きな拍手と喚声があがったんじゃ。
最初は久田見村のヒゲ男じゃった。行事の軍配がかえったと思った瞬間、
久田見村のヒゲ男は土俵の外に吹っ飛んだのじゃ。
村の人々は美濃吉のあまりの強さに少しばかり恐ろしさを感じるほどじゃった。

一等を決める最後の勝負はさすがに大勝負じゃった。
大田村の剛の助は美濃吉よりさらに1尺も高い7尺の背丈で
しかも体重はゆうに40貫(150キロ)を超える大男じゃった。
二人はグっとにらみ合った後、一気にたって組ずもうとなったんじゃ。
どちらもゆずらず長い時間がたったみたいじゃが、
スキをみて剛の助が美濃吉を土俵の縁まで押し込んだ。が、
あっと思った瞬間に美濃吉は剛の助をうっちゃり土俵の外へ投げ出したんじゃ。
さすがの美濃吉もハアハアと大きな息をしておったが、
勝ち名乗りを受ける頃になるとニッコリと笑っておったんじゃ。
美濃吉は美濃の国では一番の力持ちとなったんじゃ。

近頃の美濃吉は竹ケ鼻の山の上に登ることが多なった。
竹ケ鼻は上古井村はもとより、
勝山・大田・土田・伏見・兼山・八百津・川辺等の村々を
見渡せとても景色のいい所じゃ。美濃吉はここに登り辺りをグルリと見渡した後、
大杉の下で昼寝をするのが好きじゃった。
村の人々はこの竹ケ鼻には天狗がおると言って誰も寄りつかなんだが、
美濃吉はあのとおりの力持ちじゃったからぜんぜん平気じゃった。

ある日のことじゃった。いつものように大杉の下で昼寝をしていると、
何処からか美濃吉を呼ぶ声がした。
目をあけると大杉の上の方の大きな枝の上になにやらおるではないか。
「お前は誰じゃ?」美濃吉は声をかけた。
すると、それはフワーっと木の枝から飛び降りてきた。
「お前は天狗どんか?」美濃吉が尋ねるとコクンと頷いた。
「天狗どん。おら、いっぺんおめえとすもうをとってみたかった。
どうじゃおらと勝負するか?」
美濃吉は天狗に尋ねると、天狗はニヤっと笑って頷いた。
「おらが勝ったらおめえのその高下駄をかしてくれるか?」
天狗は頷いた。
「よし!それなら勝負じゃ。」

・・・・・・・・

「天狗どん約束じゃ。ちょこっとその高下駄を貸してくれ。」
美濃吉は天狗から高下駄を借り、トンと飛び跳ねた。
すると美濃吉は大杉の大きな枝までひとっとびで上がりきった。
「やあこれはええ!」「今度はあの鳩吹山まで行ってみよう!」
美濃吉は又トンと飛び跳ねると、あっと言う間に鳩吹山まで行って戻ってきた。

「天狗どん。どうじゃ おらに負けて悔しいじゃろう。
もう一番、今度は蓑をかけて勝負じゃ。どうじゃ?」
天狗は頷いた。
「よし!もう一丁勝負じゃ。」

・・・・・・・・

「天狗どん。約束じゃ。ちょこっとその蓑を貸してくれ。」
美濃吉は天狗は隠れ蓑を借り、ひょいとはおった。
すると、美濃吉の姿はみえなくなってしまったのじゃ。
美濃吉はいたづら心を出して天狗の後ろからトンとつっついた。
天狗はキョロキョロ辺りをみまわした。
「ハハハ・・天狗どんにも見えないんじゃなあ。」美濃吉が隠れ蓑をぬぐと姿がみえた。
「天狗どん。2番もおいらに負けて悔しかろう。
どうじゃもう一番勝負するか?
その代わりおいらが勝ったらその羽団扇を貸してくれ。」
「よし!勝負じゃ!」

・・・・・・・・

天狗は3番つづけて美濃吉に負けてしまったのじゃ。
美濃吉は天狗から借りた羽団扇をヒョイをふると ゴーっと風が舞った。
面白がってどんどん振るとあたり一面嵐のように吹き荒れた。
天狗は高下駄や隠蓑と羽団扇を返してくれるようたのんだのじゃが、
知らぬ顔をして使っておった。あまりにもしつこく天狗が言うので、
美濃吉は天狗に向って羽団扇をヒョイっと振ったんじゃ。
天狗は上古井村の方までヒューっと吹き飛ばされてしまったんじゃ。

美濃吉は、高下駄を履き隠蓑を着け、羽団扇を手にしたのじゃ。
すると、なにやら鼻がむずむずしてきて、そのうちどんどん鼻が長くなり始めたんじゃ。
美濃吉はあわてて隠れ蓑と高下駄をはずそうとしたのじゃけれど、
ぜんぜんゆうことをきいてはくれん。
美濃吉の力でもってしてもはずすことは出来なんだのじゃ。
そればかりか美濃吉の鼻は長くなり、とうとう半尺(15センチ)くらいまでのびてしまい
なんと美濃吉は本当の天狗になってしまったのじゃ。

誰にもみつからず自分が思った所へあっという間に飛んでいけ、
羽団扇でヒョイとあおると、物にしろ人にしろなんでも思うようにできる・・・・・
美濃吉は得意になって使っておった。が、使うほどになんだか鼻が長くなるような・・・
そのうち村の人々から、竹ケ鼻には天狗が住んでいて,
時々村に下りてきて悪さをすると言う噂がではじめた。
事実、誰もいないのにご飯やおかずがカラッポになっていたり、
歩いていると後から肩を叩かれ、振り向くとだれもいない。
でも地面に高下駄の跡がついていたり・・・・と数をあげるときりが無くなる程じゃった。

ある日のことじゃった。
天狗になった美濃吉が大杉の枝の上で寝ころがっていると、
なにやら木の下のほうでボソボソ声がするではないか。
美濃吉はなんだろうと思い、枝からヒョイっと飛び降りた。
そして話し声のするところへ行ってみた。もちろん、
隠蓑を着ているので姿はぜんぜん見えなかった。

「じいさま 大丈夫か?
後少しで山之上の治助どんの家じゃと言うのに、お前様が
村を見てみたいちゅうて、竹ケ鼻なんぞへ登るからこんだらことになってしもうたわ。」
「そんだらこと言うてもいまさらこのくじいた足はどうしょうもないわ。」
「けんど ここから見る景色はええじゃろう。」
「そったらのんびりしておって、日が暮れたらどないするんじゃ?」
「ええわい もう少ししたら痛みもひくじゃろうから。
こんな時、えい!って言って治ればええのじゃがのう。」
美濃吉はこの話を聞いていて、
{そうじゃのう えい!って言ってなおればそりゃええわな}と思っていました。
そして何気なく羽団扇をあおぎました。
!すると
「おい ばあさま 痛みがひいてしもうたわい。」「ほんとうけ?じいさま?」
「ああ 本当じゃとも 。ほれこの通り。」
じいさまは ピョンピョン飛び跳ねてみせたんじゃ。
「こりゃあ不思議じゃ。どうして急になおったんじゃ?」
「わしにも わからん。さっき えい!と言って治ればええがと思っちょった時からじゃ。
こりゃあ本当にありがたい事じゃ。」
「この大杉には神様でもいらっしゃるんかいのう?」
「そうじゃそうじゃ。神様でもいらっしゃるんじゃぞい。」
「ありがたや ありがたや。」
二人は大杉に深々とおじぎをして、去っていったんじゃ。

美濃吉は何か不思議な感じを覚えたんじゃ。
何とも言えない清清しさを感じたんじゃ。
この時までは美濃吉もこの羽団扇の本当の使い方を知らなんだのじゃな。
自分が思っていることが、
良いことにつけ悪いことにつけそのまま現れるちゅうことを・

次の日のことじゃった。昨日のじいさまとばあ様が、
山之上の治助どんを連れて竹ケ鼻へ登ってきた。
美濃吉はあいかわらず大杉の枝の上で寝そべっていた。
「治助どん おめえ持病の腰いたがあったじゃろう?いっぺん騙されたとおもって、
この大杉にたのんでみい。きっと痛みがとれるぞい。」
「医者へ行ってもなおらん。薬を飲んでもなおらん。
そんじゃいっぺんお願いでもしようかの。
大杉様どうぞおらの腰いたをなおしてくださられ。お願いしますだ。」

これを聞いていた美濃吉は、
{治助どんの腰いた直れ}と思い込み羽団扇を振ったのじゃ
「おお!不思議じゃ!腰の痛いのが治ったぞ!これこのとおりじゃ。」
治助は背筋をピンと伸ばし二人に話したのじゃ。
「それみい 不思議じゃろう ここの大杉には神様がおらっしゃるんじゃないかのう。」
「ありがたや ありがたや。」
これを見ていた美濃吉は、またまた清清しい気持ちになったのじゃ。
それになんだか鼻の長さが少し短くなったような・・・・

うわさが噂を呼び、あちらこちらから 困った人々が訪れるようになってきたんじゃ。
でも中には強欲な奴もいて、もっと金持ちになりたいなどとの願いの時は、
逆にとてつもなく重い鉄の塊を与えたんじゃ。

あれやこれやと美濃吉は忙しい毎日を送っていたんじゃが、
ある日のこと一人の子供がやってきて、おっかあの病気を治してくれるよう
願をかけたのじゃ。むろん羽団扇であおいでやってこれを治してやったのだが、
急に自分のおっとうやおっかあのことが気になりだしたのじゃ。
それで、ヒョイと上古井村の自分の家に行ったのじゃ。

おっとうとおっかあはいろりのそばで縄を綯っておった。
美濃吉はなんだか悲しくなってきたんじゃ。
天狗になっている自分を親には見せられない。
「おっとう、おっかあ」って声をかけたいのじゃがそれが出来ん。
美濃吉は泪を流しながら竹ヶ鼻へと戻っていったんじゃ

その日はもうすぐ嵐が来るちゅう事で、朝から風の強い日じゃった。
美濃吉はいつもどおり大杉の枝に乗っかってあたりを見ていたんじゃ。
すると、ふもとの方から一人の子供がこの竹ヶ鼻へ向かって登ってくるではないか。
こんな風の強い日に余程のことかなと思って見ていたんじゃ。

その子供は、この竹ヶ鼻のてっぺんにきてあたりを見回し、
「やあ やっぱりここからの眺めは最高じゃ。
おらは大きくなったら絶対一番になってやる。」
子供はそう言って大きな背伸びをしたんじゃ。それから大杉の傍にきて
その杉の木のまわりをグルグルと回っておった。
なにをするんじゃろうと美濃吉は見て居った。
その子供は急に上を向き、いきなりこう言ったのじゃ。
「そこにいるのは天狗どんじゃろ?」
美濃吉はびっくりした。
隠蓑を着ているにもかかわらず見つかってしまったからじゃ。
「おい 天狗どんここに降りておいでよ。」
美濃吉は大杉の枝からヒョイっと降りたんじゃ。そして隠蓑をはずしたんじゃ。
「ハハハ 大当たり! やっぱり天狗どんじゃった。」
「おいらのやまかんがあたったわい。」
「この山には天狗どんがいるって聞いてたから、
いるならこの大杉しかないと思っとったんじゃ。」

「天狗どん、どうじゃおいらとなぞなぞ遊びをしよ。
もしおいらが勝ったらその高下駄を貸してくれるか?」
美濃吉は退屈していたし、おもしろそうだったからコクンと頷いた。
「よし 天狗どん最初のなぞなぞじゃ。月とスッポンがすもうをとったんじゃ。
どっちが勝ったか?」
美濃吉は考えました。が、わかりません。降参するとその子供は言いました。
「ツキダシで月の勝ちじゃ。天狗どん、約束じゃちょこっとその高下駄を貸してくれ。」
子供は高下駄を履いてヒョイっと飛び跳ねました。
すると大杉の枝のうえまで上がりました。それから、
ひとっとびで伏見まで行って返ってきました。

「天狗どん もう一丁するか?」
美濃吉は悔しかったので頷きました。
「おいらが勝ったらその隠れ蓑を貸してくれ。」
美濃吉は頷きました。
「どこもぬらさないで、水の中に入るにはどうすればええかな?」
美濃吉は考えましたが、わかりません 降参しました。
「ハハハ 又勝ったぞ。答えはな 自分の姿を水に映すんじゃ。
そうすれば 水の中に入ったじゃろ。さあ 約束じゃ
ちょこっとその隠れ蓑を貸してくれ。」
美濃吉は子供に隠蓑をかしてやった。
子供がその隠れ蓑を着るとぜんぜん姿がわからなくなってしまった。
後からチョイチョイとつつかれたが、まるでわからない。
子供は隠れ蓑を脱いでこういった。

「天狗どん 二つも負けでは悔しかろ。おまけにもう一番勝負するか?」
事実、美濃吉は悔しかったので頷いたのじゃ。
「おいらが 勝ったら その羽団扇をかしてくれ。」
美濃吉は頷きました。
「では 天狗どん 最後にわるのは なあ~んだ?」
最後にわる?・・・・美濃吉は考えましたがわかりません。とうとう降参しました。
「ハハハ 又勝ったぞ 答えはのう おわり じゃ。

さあ 約束じゃその羽団扇を貸してくれ。」
美濃吉はしかたなくはね団扇を貸してあげたのじゃ。
チョコっとふるとそれは風になりました。子供が面白がって放さないので、
美濃吉は返してくれるよう言ったのじゃ。
すると
突然その子供は美濃吉に向かって羽団扇をヒューっと振ったから大変です。
美濃吉は太田の村まで吹き飛ばされてしまったのじゃ。

・・・・・・・・・・

どのくらいたったんじゃろう 美濃吉は田んぼの中で目をさましたんじゃ。
それから 辺りをみまわし、自分の顔の汗を手でぬぐおうとした時じゃ。
{ない!ない!鼻がない!。}
天狗の時の美濃吉の鼻は半尺もあったろうに、
今は前と同じ普通の鼻になっておったんじゃ。
すぐ傍の溜池に自分の顔を映してみた。
前と同じ美濃吉の顔になっておった。
戻ったんじゃ。美濃吉は急いで立ち上がり、
一目散に上古井村の美濃吉の家に向かったのじゃ。
「おっとう!おっかあ。」
美濃吉は大きな声で叫びながらはしっていったのじゃ。

おしまい?

そう これでこのお話はおしまいじゃ。
うん?その後竹ヶ鼻がどうなったかって言うのかの?
美濃吉が急いで家に戻ってからしばらくすると、大嵐が来たんじゃ。
それで、あの大杉は風で倒れてしまったのじゃ。多分大風で倒れたと思うがの。
ひょっとかすると あの子供が羽団扇で吹き倒したかもしれんの。
うん?あの子供か?
さあ その後のことはわしは知らん。が、大杉も無くなって居る場所がなくなったから、
どこぞへ行ってしまったかもしれんの。
その後竹ケ鼻に天狗が出たと言う話を聞いたことがないもんなあ。
そんじゃあ このへんで さいなら

ものがたり・しぶがき弥平

はじめに

この美濃加茂市蜂屋町は古くから干し柿の生産地として各地に知れ渡っています。
文献によれば
古くは奈良時代以前より干し柿を朝廷や公家等に献上していたようです。
戦国時代には信長や秀吉、家康などにも献上していたとのことです。
現在においては宮内庁ご用達の品にも加えられております。
実際は”堂上蜂屋柿”と呼ばれているようです。
この蜂屋柿をテーマに作りましたが、
例によって史実とは何ら関係がありませんので、ご承知おきください

むかしむかし
美濃の国の蜂屋村に弥平と言う男が住んでいました。
弥平はとても働き者で、朝薄暗い頃から夜遅くまで、
田んぼや畑でせっせこ、せっせこ働いていました。

ある日のことです。
弥平はたきぎを取りに、山にでかけました。
ショイコにいっぱいの薪を取り、山を降りようとした時です。
頭の上にカラスがカーカーと鳴いて飛んできて、
弥平の足元に何やらポトリと落としていきました。
「おや これは柿の種ではないかな?」
弥平はその柿の種を拾って懐にしまい、家に帰りました。

「おっかあ 帰ったぞ。」
「おや お前さん。随分早かったねえ。」
「ああ 思ったより早くしまえたワイ。それになあ」
弥平はカラスが落としていった柿の種のことを女房のお里に話しました。

「庭の隅に植えるかのお。」
「うまい柿になるといいねえ。」
二人はそう言って庭の片隅に柿の種を植えました。

{桃栗三年、柿八年。梅はスイスイ十三年。}

昔より桃や栗は実をつけるのに三年、柿は八年 梅はなんと
十三年もかかるとの言い伝えがあります。
弥平はこの柿の種を懸命に世話をしました。
そうして八年過ぎた秋のことです。

いつものように朝早く起きた弥平は外にでて、大きくなった
柿の木をみました。
「おっかあ!できたぞ できた。」
「柿の木に実がなったぞ!。」
朝飯の仕度をしていたお里も、弥平の大きな声に驚いて外にでて来ました。

「あ~れ ほんとじゃ。」
「おっとう よかったのう。ようやく柿が実をつけたのう。」
「世話したかいがあったわい。よかったよかった。」
弥平とお里は一杯実をつけた柿の木を感慨ぶかく見ていました。

「あと ちょこっとすると 真っ赤になるで、そうしたら一緒に食べよかの。」
「ええ 楽しみじゃねえ おっとう。」

柿の実は日に日に赤色を増してきました。
「どおれ もうええじゃろう。」
「お里 柿の実をちぎるぞい。」
弥平とお里は柿の実をもぎ、
真っ赤に色ずいておいしそうな柿の実を二人でガブリと食べました。

「うへ~!」
弥平は一口食べて、その余りの渋さに思わず大きな声を出しました。
真っ赤に色ずいてうまそうな柿は、なんと渋柿だったのです。
「おっとう、これは渋柿じゃ!。とっても食べられるもんじゃない。」
「世間様に笑われるまえに、早う柿の木を切ろまいかの。」
その当時は、渋柿の木はすべて切り倒していました。
「うん・・・・。」
でも 弥平はまだあきらめきれません。
「もうちょこっと 様子を見よまいか。」
柿の実は日に日に赤みを増してきましたが、
一つもぎって食べてみるとやっぱり渋柿です。

そんなこんなしている内に渋柿だということが近所に知れ渡ってしまいました。
「八年もかけて、弥平どんは渋柿を作った。ワハハハ。」
「ほんにご苦労様なこった。ワハハハ。」
あげくの果てに子供達からも「わ~い しぶがきやへいのおっちゃんや・・・。」
とからかわれる始末でした。
やっとのことで、弥平は決心をしました。
「明日もういっぺん食べてみよ。それでダメなら柿の木を切ろう。」
弥平は寝床にはいりました。

どのくらいたったでしょうか。
「弥平どん。弥平どん。」
弥平は薄目を開けました。
枕もとにきれいな娘が座って弥平を呼んでいるではありませんか。
弥平は「これはきっと夢に違いない。でもきれいな娘だなあ。」と
思いつつまた瞼を閉じました。
「弥平どん。弥平どん。」
今度は弥平の体に手をかけてゆするではありませんか
弥平はあわてて飛び起きました。
「お前はだれじゃ?この近所の娘ではないな。」
「こんな夜中に何事じゃ?」

「私は、弥平どんに育ててもらった柿の木です。」
「明日弥平どんは私を切ってしまうおつもりですか?。」
なんとこの娘は柿の木の精霊だったのです。
「ああ 明日 もし柿の実が渋かったら、これ以上世間様に笑われとうない。」
「そん時は かわいそうじゃが切るしかないじゃろうのう。」
「お願いです。私を切らないでください。」
「そんでものう・・・。」
「お願いします。弥平どん。私を切らないで下さい。」
柿の木の精霊は何度も何度も弥平にたのみました。

「弥平どん、柿の実の皮をむいて、軒の下につるして一月ほど干してください。」
「きっと 甘い柿の実になりますから。」
「どうか それまで私を切らないでください。」
娘はそう言うとすっと消えてしまいました。

次の朝、弥平は柿の実をすべてちぎり、皮をむいて軒の下につるしました。
女房のお里もあきれて見ていましたが、しまいには手伝ってくれました。
「お前さん、こんなことをして又近所から笑われるだよ。」
弥平は夕べのことをお里に話しました。
「キツネかタヌキに化かされたんじゃないのけ?」
「うん でもいっぺん信じてみようと思っての。」
「柿の木はいつでも切れるからの。」

軒下にはズラリと皮をむいた渋柿が並びました。
これを見た近所の人は「とうとう 弥平どんも気がふれたわい。」
「まだ若いのにのう。気の毒なこっちゃ。」
とうわさをしておりました。

そうこうしている内に一月がたちました。

お殿様がこの蜂屋村を見回りにきました。
あちこちの様子をみまわった後、弥平の家の前を通りかかりました。
軒下に何やら薄黒くなったものが並んでいます。でもそのあたりから
とてもかぐわしくうまそうな匂いがしてきます。
「これはなんじゃ?」
弥平はお殿様に直接尋ねられたので、びっくりしました。
「へい これは柿を干したものです。」
「なに?柿を干した?うまいのか?」
弥平は返答に困りました。うまいのかまずいのか弥平にもわかりません。
口のなかでもごもごしていると、突然 お殿様はその柿の実をつかみ
ガブリと口のなかにほうり込みました。

「うお~~~。」
お殿様がものすごい声を出したので、弥平はお手打ちになると思い、
土下座をして額を土の上にこすりつけ、「お殿様 お許しください。」と
謝りました。お里もあわてて飛び出してきて、
「お殿様、どうかお許しくださいませ。」とペコペコ頭をさげました。
近所の人たちも「これで弥平どんも打ち首じゃろうな。」
「気の毒に、いつまでもあんな柿の木を置いておくからじゃ。さっさと
切ってしまえばよかったのに。」と思っておりました。

「そのほう 名はなんと申す?」
お殿様は弥平に尋ねました。
「へ へい 弥平と申します。」
「弥平と言うのか。」
「弥平 今すぐこの柿の実を城にもってまいれ!必ず一人でまいれ!よいな。」
お殿様はそう言うとお城に戻っていきました。

「お里 もうだめじゃ お城にこの柿の実をもってこいとの事じゃ。」
「それも一人じゃとのことじゃ。お里世話をかけたの。」
「おわかれじゃ。お里・・・・後をたのむぞ。」
「お前さん わ~~ん。」
お里は大きな声で泣き始めました。
「お里 うえ~~~ん。」

二人は抱き合って泣いていました。
そこへお城からの使いの者がやってきて、「おい!弥平さっさとしろ!。」と
どなりつけました。
弥平は軒下の柿の実をすべて取り、ショイコに背負って、家来の後をトボトボと
ついて行きました。

お城についた弥平は
弥平の家がスッポリ入るくらい広い部屋にとおされました。
「ここで 心を決めて静かに待っていろ!。」
家来はそう言うと弥平を一人だけにして去っていきました。
「心を決めて待ってろということは、もうダメじゃ。」
「静かにしていろって言ったって、ガタガタ震えがきてたまらんわい。」
弥平はブルブル震えておりました。
どのくらいたったのでしょう。
障子がスッと開いて、一人の腰元がお盆の上に何かを載せて運んで来ました。

「さあ これを飲んで楽になってくださいな。」
{打ち首はまぬがれたけんど、これはきっと毒じゃ。ああ お里とこれでお別れじゃ}
そう思いながら 弥平はお盆の上の飲み物を覚悟を決め一気に飲み干しました。
{熱い!熱い いよいよこれで おしまいじゃ・・・。}
と思いましたがしばらくするとなにやらとても気持ちがよくなってきました。
もののついでにもう一つの飲み物もグイっと飲みました。
ますます気持ちが良くなりました。

そこへお殿様が供の者を従えやってきました。
「弥平 そのほうどうやってこの柿を作ったのじゃ?」
弥平はあの夜の娘の話をお殿様に話しました。
「するとこの柿はもともとは渋柿じゃったと言うことか?」
お殿様は再び弥平に尋ねました。
弥平は娘から聞いたとおりの作り方をお殿様に話しました。

「弥平 これを食べてみよ。」
お殿様は柿の実を弥平に渡しました。自分で作った柿に実ですが、
干した実は初めてです。
弥平は手にとった柿の実を恐る恐る口にもっていきました。

「う うまい!」
なんと この世の物とは思えないほどに甘く美味しいものでした。
「弥平 見事じゃ! そのほうの家から柿の実をすべて持ってこさせたのは
他国に知られたくなかったからじゃ。」
「いずれ他国にもわかるじゃろうが・・これをわが国の産業にしようぞ。」
「弥平 そのほうに褒美をとらすぞ。」

「おさと~~~~。」
弥平は一杯のご褒美を背にお里のいる家へと走ってもどりました。
柿の木の下を通りかかった時です。どこからか
「弥平どん ありがと。」と
あの娘の声が聞こえました。

村の人たちも 弥平のことを誰も笑ったりしなくなりました。
そして 弥平とお里はいつまでも 仲良く暮らしましたとさ。

ものがたり・甚五郎桜

むかしむかし 美濃の国から飛騨の国への 通り街道に
神渕というまるでウナギの寝床のようにほそ長く続く村がありました。

ある日のことです。
この村を一人の旅の男が通りかかりました。
でも なんだか少しようすが変です。
おとこはよたよたと歩いてきてついにお寺の門のところで
ペタンと座り込んでしまいました。

そこへ 和尚様がお寺から出てきました。
和尚様は男の人に尋ねました。「どうなされたのじゃな?」
おとこは和尚様に答えました。
「私は木彫師の甚五郎と言う者です。実は これから
飛騨の高山へ カラクリ人形を作る為に行くところなのですが、
旅の途中どこかで路銀を落してしまい、もうまる二日何も食べていません。」
「おお、それはお気の毒に。それではひとまずこのお寺にお泊まりなされ。」
和尚様はそう言って旅の男を泊めてあげました。

「何分と山奥の村じゃ。さあさ あまりご馳走はできませんが、
どうぞお腹いっぱい召し上がって下ださい。」
和尚様はそう言って 木彫師の甚五郎にご飯とお味噌汁
山で採れた山菜やらを差しあげました。
「それから これから高山まではまだ大分とある。わずかじゃが
持って行きなされ。」和尚様は 路銀を渡たしました。
「和尚様有難がとうございます。お陰で助かりました。」
甚五郎は目に泪をいっぱい浮かべ、何度もお礼を言いました。
「なんの なんの 困った時は お互い様じゃ。そんなに
気になさらなくてもいいですよ。」
和尚様は優しいまなざしで甚五郎に言いました。

「和尚様、私は京の都では少しは名の通った木彫職人です。
このご恩と言っては何ですが、一つ何にかを彫らせて下ださい。」
「高山へ行くのはもう少し後でもいいものですから…」

「そうじゃのう……」
和尚様はしばらく考がえていましたが、
「その昔、スサノオノミコトが、”やまたのおろち”を退治された時
龍の首がこの神渕の里まで飛んできてほれ、
お前様が座り込んでおった側の池に落ちたとのことじゃ。
それ以来このお寺のことを龍門寺と呼ぶようになったのじゃが、
この寺には龍の形をした物がない。」
「甚五郎どんが そう言ってくれるのなら、一つ木彫の龍を
作って頂だけるかの?」
和尚様は甚五郎にこう言いました。
「和尚様喜こんで作くらさせていただきます。」

次の日から甚五郎はお寺の本堂で木彫の龍を彫始じめました。
三日三晩というもの甚五郎は寝る時間も惜しんで彫り続づけました。
そして四日目の朝、龍の彫り物は完成しました。

「おお これはすばらしい! 見事なものじゃ まるで今ますぐに
でも動き出すようだ。う~ん」
和尚様はあまりにもすばらしい出来栄に思わずうなってしまいました。

龍の彫物は寺の門に具なえつけられました。
まるで龍がこの門に住み着いているかのようです。…・・

その夜のことです。
ピカッ!ガラガラガラドドオン!
ものすごいカミナリの音ともにザザアーと雨が降り始めました。
風もゴオーと吹き荒れ、
その中を何かがものすごい唸なり声をあげながら駆け回わっているようです。
村むらの人々ひとびとは突然の出来事、
恐ろしくなり雨戸を締め切ってガタガタ震えていました。

そうして 夜が明けました。
「おい 夕べの嵐はすごかったのう」
「本当に!何や恐ろしかったのう。」
村の人々は会うたびに夕べの嵐のことを話し合いました。
「あの恐しい叫び声は何じゃろう?」
「そうじゃそうじゃ なんじゃろう?」
村の人々は嵐の中での出来事に心を震るわせていました。
そして このことは 次の夜も又その次の夜も続づきました。

「おお あれは!」
一人の若者のが 恐そる恐そる戸を開けて荒れ狂う外の様子を見ました。
そこには
雨風にまじって世にも恐ろしい一匹の龍が大きな叫び声をあげながら
飛び回っているではありませんか。
「龍だ!龍が飛び回っている!」
若者は大きな声をあげました。

次の朝、この龍の話で大騒ぎです。
「きっと お寺の龍が暴れまわっているんだ!。」
「そうだ!そうに違いない!。」
村人達はそう思い和尚様に話しました。
「そうか この門の龍が…・・暴れまわっているのか…・・。」
「きっと ”やまたのおろち”の魂が乗り移ったに違がいない。」
和尚様は高山に行った甚五郎を呼び戻すために村人ひとを使いにやりました。

高山から再び龍門寺に戻った甚五郎は、
「和尚様それでは龍の心の臓を取り出しましょう。
そうすれば この龍は絶対動き回りません。」
こう言うと甚五郎は、木彫の龍から心臓の部分をくりぬきました。

「和尚様これをどこかに念仏を唱えて埋めてください。」
甚五郎は そう言ってくりぬいた木彫の龍の一部を渡たしました。
和尚様は、念仏を唱なえ これを土の中に埋めました。

それからは不思議なことに、暴れまわっていた龍この村に現われなくなりました。

あくる年のことです。和尚様が念仏を唱なえ土の中に埋めた所から
木の芽が出て、あれよあれよといううちに大きな桜の木となって見事な花を咲かせました。

村の人々は、この桜の木のことをいつしか ”甚五郎桜”と呼ぶようになりました。
甚五郎桜は現在も春になるときれいな花を咲かせています。

                   おわり