◆狸の童のおはなし

むかしむかし
ある山の奥深くのちいさな村にとてもなかのいい 
じっさまとばっさまが住んでいました。

そとは夕暮れ・・木枯らしがピープーふいています。
「さあむい寒いお外は寒い、はあやく縄なってしまおかの。」
じっさまは歌いながら土間でなわを綯っています。
ばっさまはというと あがりはなのイロリでなにやら煮ています。
「じっさまじっさま もうじっき オナベがグツグツにえますよ。
はあやく なわなってしまやんせ。はあやく しまいにしやしゃんせ。」
ばっさまも同じように歌ってじっさまに話しました。
そして 二人で顔を見合わせ、ハハハ ホホホと笑いました。

トントントン

外で誰かが戸をたたきました。
「おんや こんな夕さ(夕方)にだれかいな。」
じっさまは縄をなう手を休めて言いました。
冬の夜は早く来ます。もう外は真っ暗になっていることでしよう。
「さあて じっさまちょこっと見ておいでな。」
ばっさまはじっさまに言いました。
「そんじゃあ。」といってじっさまは入り口の戸のところに行きました。

「もうし 外の人 こんな夜中になんじゃいな?」
じっさまは戸ごしに 聞きました。
「おら タヌキじゃなかったポンタじゃ。 
道に迷ってしまったけん一晩泊めてくんろ。」
外からは子供のこえで返事が返ってきました。
「道に迷うたちゅうて、こんな夜更けに童(わらし)がどこさ行くつもりじゃ?
さては キツネかタヌキかそれとも何ぞバケているんとちがうか?」
じっさまは そういって戸を開けようとしませんでした。
ばっさまが傍まできて言いました。
「じっさま ええじゃねんか キツネでもタヌキでも、こんな寒い夜じゃ
一晩くれえなら泊めてやりんしゃい。」
じっさまは 戸を少しだけあけました。
そこには寒さでふるえている 一人の子供がたっていました。
木枯らしがふいて、こなゆきもちらちら舞っています。
「こりゃこりゃ 寒かったじゃろ。はよう中にはいりんしゃい。」
じっさまは 思い切り戸をあけました。
ピュー 風が家の内中を飛びまわりました。

「さあさ イロリのそばへ来い。」
ばっさまは 童にそう言って イロリのそばへ連れて行きました。
「あったけえ あったけえ。」
童は手をイロリの火にかざして言いました。
「そうじゃろ あったけえじゃろう。ちょこっと待ってな。じっさまの仕事も
きりがつくじゃろうから、そしたら 芋汁をやるでな。」
「じっさま そろそろ終わりにしなしゃんせ。じっさまの好きな芋汁もできたでな。」
「よっしゃ そんじゃあ 今夜はこんでおしまいじゃ。 あ あ~あ。」
じっさまは大きな背伸びをしてから 土間のなわを片付けました。

・・・・・・

「おまっとうさん。」
じっさまはイロリのそばに来ました。
「さあさ たんと食べれ。」
ばっさまはお椀に芋汁をそそぎ、童に差し出しました。
よほどお腹がすいていたのでしょう。あわてて食べようとしましたが、
熱くて食べられません。
「これこれ そんなにあわてなくてもええじゃ。芋汁はたんとあるでな。
それにな、ほれ こうして 食べるんじゃ。」
じっさまは 童のお椀にフーフー息をかけました。
「ほれ こうすると さめるじゃろ。そうやって 食べろ。」
童はフーフー息をかけながら 芋汁を食べはじめました。
「さあさ じっさまも。」
ばっさまがじっさまにお椀を差し出しました。
「あんがとよ。」
じっさまも芋汁をフーフー息をかけながら食べました。

・・・・・

「食った食った もお食えん。ほれ お腹がポンポコポンじゃ。」
童はそう言ってお腹をたたきました。

ポン! 

童のお腹からはとってもいい音がしました。
「ホホホ うまかったか?」ばっさまが言うと 「うん とってもうまかった。」
「たんと食べたで なんや眠うなってきただ。」
「そうかそうか そんならそこで横になれ。」
じっさまは 童を自分の横に寝かせました。

お腹が一杯になり、温かくなったので 
童はすぐに寝息をたてて寝てしまいました。
じっさまとばっさまは芋汁を食べながら、その童を見てはニコニコしていました。
「かわええの かわええの。」
じっさまが言いました。ばっさまも「うん うん。」うなづきました。
そして 又童の寝顔をのぞきこみました。

と!、

「じっさま じっさま ちょっと見んさい。」
ばっさまがじっさまに言いました。
「どないしたんじゃ?」じっさまが言いますと、
ばっさまは 童のお尻のあたりを
ゆびさして、「ほれほれ このとおり。」
「ありゃりゃ シッポじゃシッポ。」
なんと 童のお尻からはタヌキのシッポが覗いていました。

やさしい じっさまとばっさまで タヌキもついつい安心したのでしょう。
シッポを出してしまいました。が、じっさまもばっさまも そんなことは全然
気にもせず、眺めておりました。
「かわええのう かわええのう。」「うん うん。」
じっさまとばっさまは 幾度となく言いました。

寒い冬の夜のことです。
じっさまとばっさまもイロリのそばで横になりました。
イロリの火は赤々と燃えています。まるで二人の心持のように・・・・

次の朝、タヌキのポンタはガバッとハネ起きました。
あたりをキョロキョロ見回すと、じっさまは土間でぞうりを作っています。
ばっさまはカマドのそばでなにやら炊いています。
「じっさま ばっさま夕べはありがと。オラもう出て行くだ。」
じっさまもばっさまも 驚いて言いました。
「出てゆくちゅうたって どこいくだ?」
「どこって 言っても・・・・・」
ポンタはもじもじしながら答えました。
「お前さえよかっらた ここにずっとおったらええぞ。」
じっさまが言いました。
ポンタは、じっさまもばっさまも自分のことを本当に人間の子供だと信じて
いると思いました。ポンタは じっさまとばっさまに悪いことをしたと思いました。
「おら やっぱり出て行くだ。」
「お前がタヌキだからか・?」
じっさまが 急にこう言ったのでポンタはびっくりしてしまいました。
「おら・・おら・・」
「お前がタヌキじゃろうと本当の子供だろうと、キツネだろうと 、
そんなことはええ。お前さえよければ ここにズッといろ。」
「そうじゃそうじゃ ポンタ ずっとここにいろ。」
ばっさまもこう言いました。

ポンタはあまりのことにオロオロしてしまいました。
こんなやさしいじっさまとばっさまと一緒に暮らせたら
どんなにかいいことかと思いました。
「ポンタ、ポンタ こっちに来い!」
ばっさまが言いました。
「おお ポンタ、ポンタ じっさまへも来い。」
じっさまも 同じように言いました。
ポンタは嬉しくなって、「うん ばっさま。」
と言ってばっさまのひざの上に
行きました。それから じっさまの うでの中に行きました。

こうして
タヌキのポンタはじっさまとばっさまと一緒に暮らすことになりました。

「ポンタや もうすぐたあんと雪が降るぞ。その前に山へ薪を取りに行くで
ついてくるか?」
じっさまが言いました。
「うん おらじっさまと一緒に行く!」
ポンタは嬉しそうに答えました。
「そうかそうか そんならおにぎりをこさえたるの。なんせポンタは
大飯食いじゃからの。 ホホホホホ」
ばっさまは笑いながら言いました。
ポンタは照れくさそうに「へへへへ。」と笑いました。

じっさまは裏の軒の下から薪を背負うショイコを二つ持って来ました。
それから 腰にはナタをつけました。
「おにぎりはポンタが持っていけ。じゃが 途中で食べてしまうなよハハハハハ。」
じっさまも楽しそうに言いました。
なにせ じっさまとばっさまにはポンタという可愛い子供が出来たのです。
こんな嬉しいことはありません。
ポンタもこんなにやさしいじっさまとばっさまと一緒に暮らせるのです。
とても幸せな気分でした。

「さあ たあんとおにぎりも作ったで、ポンタほれちょっくら重いぞ。」
ばっさまは たくさんのおにぎりをポンタに渡しました。
「ばっさま そんじゃいって来るぞな。」
ポンタは言いました。そして 早足で外に出ました。
「じっさま 早くいくぞ。」ポンタははりきっています。
「あわてるな あわてるな。」じっさまは 笑いながら言いました。
「そんじゃ ばっさま行って来るでな。」
「おうおう じっさま気をつけてな。」
ばっさまは 外に出て二人を送り出しました。

時々木枯らしがピープー吹いてきて、まもなくたくさんの雪が降ることでしょう。
遠くの山々はもう真っ白に雪化粧をしています。
雪が降り始めるとこのあたりは全部雪の中に埋もれてしまいます。
ばっさまに見送られ二人は山へと向かいました。

じっさまとポンタは話しながら山道を歩いています。
「じっさま 今日はたあんと柴かれたな。」
「おうおう たあんとかれた。ポンタがようがんばった。」
「じっさま 今日はたあんと薪をひろったな。」
「おうおう たあんと拾ったぞ。ポンタがようけ拾ったわい。」
「じっさまじっさま、ばっさまのこさえたおにぎりうまかったな。」
「おうおう うまかった。ポンタはようけ食べたワイ。」
「じっさま じっさま オラキノコがいっぱいあるとこ知ってるだ。
ポンポコ谷の近くだけんど、ばっさまにとっていってやろかの。」
「ポンポコ谷まではちと遠いぞ。」
「近道があるだ。じっさま いこ。雪が降る前が一番うめえぞ。」
「そんなら いこまいか。」
じっさまとポンタはポンポコ山へと向かいました。

ひとつ山を越え谷に入るところで、突然!
ガラガラガラ!ものすごい音とともに山の中ほどから岩が崩れてきました。
「あっ!ポンタあぶねえ!。」
じっさまはポンタを自分の腕の中に抱え込み、
近くの大きな切り株の後に隠れました。
ゴロゴゴロ!
岩はじっさまのそばを転げ落ちていきました。

「じっさま ありがと オラびっくりしただ。! じっさま どうしただ?」
じっさまは 足をおさえて痛そうにしています。
岩崩から逃げる時にどうやら足をくじいてしまったようです。
「じっさま オラ誰かよんでくる。少しまっててくれ!。」
ポンタは、そう言って 走り出しました。

ポンタは走りました。ひとつ山を戻り、二つ目の山を越え、
ようやく村への街道に出ました。もう少しすると夕方になってしまいます。
ポンタは少しあせっていました。
「ああ じっさま 大丈夫かの。誰かいないかの。」
一本松の近くまで来た時です。
近くの畑に男の人と女の人が野良仕事をしていました。
「ああよかった。お~い そこの人、オラのじっさまが 山で足をくじいてしまった。
たのむで 助けてくんろ!。」
その声でしゃがんで仕事をしていた二人は立ち上がり、ポンタの方を見ました。
そこには タヌキがいるではありませんか。
「やや! タヌキじゃタヌキ! おっとう、おらたちをだまくらかすつもりじゃろ。
つかまえてタヌキ汁にしよまいか。」
「そうじゃ そうじゃ そうしよう!」

二人は仕事をやめてポンタのほうへ走ってきます。
これにはポンタもびっくり、慌てて逃げ出しました。ふたりは追いかけてきます。
ポンタは一本松まで逃げてきました。と、そこにはお地蔵様がいらっしゃる。
ポンタはお地蔵様に言いました。
「お願いじゃ、おらをかくまってくれ。」
ポンタはお地蔵様の後に身を隠しました。

そこへ二人がやってきました。
「どこいった?確かこの辺にきたと思ったが・・」
「あっちじゃ あっちを探そう。」
ふたりは 別の方に走っていきました。
二人が遠ざかったのを見て、ポンタはお地蔵様の後からでてきました。
「ああ こわかった。お地蔵様 ありがとう。けんど だれもオラの言うこと
信じてくれん。お地蔵様オラどうしたらええんじゃ。オラ タヌキだけんど
オラ タヌキじゃねえ!」
「こうなったら オラがじっさまを・・・」
ポンタはまたじっさまのいる山へと走っていきました。

ゴ~~ン

寺の鐘の音が聞こえてきます。あたりは次第に暗くなり始めました。
ばっさまが お地蔵様のところまでやってきました。
「心配じゃのう。さっき村の衆がタヌキジャタヌキじゃと騒いでおったが、
じっさまがどうの、足がどうのと聞こえたが・・どうも心配じゃて、
お地蔵様、どうぞじっさまとポンタをお守りくださいな。」
ばっさまがお地蔵様にお願いをしている時です。
ポンタがじっさまをせなかにおぶってやってきました。

「ポンタ!どうしたんじゃ?じっさま!どうしたんじゃ?」
ばっさまは驚いて二人に尋ねました。
「ばっさま、ああ助かった。じっさまが足をくじいて歩けんのじゃ。オラ、
村の人に助けてってたのんだけんど、オラガタヌキじゃけん、誰も信じてくれん。」
ポンタはそう言ってじっさまを背中におぶさったままその場に倒れてしまいました。
「こったら小せえ体でわしをここまで背負ってきたんじゃ。えらかっらろうの。」
「そうかそうか、ポンタようここまでがんばったのう。」
「オラくやしい オラタヌキじゃども、オラタヌキじゃねえ!」
ばっさまも 目に泪をうかべて言いました。
「そうじゃそうじゃ お前はじっさまとばっさまの童のポンタじゃ。」

いつしか先の百姓の男の人と女の人が、村人達とやってきていました。
「じっさま、ばっさまかんにんな。
タヌキがオラたちをてっきりだまくらかすと思ってな。」
「ポンタ かんにんな。もうお前のことをタヌキなんていわねえからな。」
「さあ じっさま、オラの背中におぶされ。家さ帰るだ。」
こうして ポンタ達は家に帰ることになりました。

ポンタは少し歩いてから、ふと立ち止まりお地蔵様のところに戻りました。
そしてお地蔵様に手を合わせ、「お地蔵様、ありがと。」
お地蔵様は何も言わず、ただ だまって立っています。
あたりは、夕闇がせまってきました。

・・・・・

「ポンタ、ポンタじっさまこい。」
「うんうんじっさま。」
「ポンタ ポンタばっさまへこい。」
「うんうん ばっさま。」
家の中のイロリのそばで、じっさまとばっさまにはさまれ、ポンタは
うれしそうにあっちへいったり、こっちにきたりしています。
じっさまもばっさまも笑いながらポンタをかわるがわる抱いています。

三人はこうしていつまでもいつまでも幸せに暮らしました。

おしまい

◆たぬき地蔵のおはなし

むかしむかし

ポンポコ山にポン吉と言うタヌキが棲んでいました。
ポン吉はとてもいたづら好きで、街道にでてはいつも人間を
驚かしたりダマしたりしていました。

ある日のこと、ポン吉は一本松のある峠にやってきました。
すると そこにはお地蔵様があって、なにやらお供えをしてる人がいます。
ポン吉は草むらからその様子をじっと見ていました。

人間が去ったあと、そのお地蔵様のところに行くと、そこには
美味しそうなお菓子がおいてありました。
ポン吉はそれをパっと口の中にほうり込みました。
「うめえ!こんなうめえもん食ったことがねえ。」
「お地蔵様はこんなうめえもんくうとるのか。よっしゃそれじゃあ
オラがお地蔵様になって、いっぺえうまいもんくうたろ。」

ポン吉はそのお地蔵様を近くの川にすててしまい、
自分がお地蔵様にバケてしまいました。
そしてそのお地蔵様がおった場所になにくわぬ顔でチョコンとたちました。

どのくらいたったことでしょう。いいかげん待ちくたびれたから、やっぱり
やめようとした時です。村の方から、一人の男の人がやってきました。
どうやらこれから遠くへ旅に出る様子です。
男の人はお地蔵様の傍にきて、「お地蔵様、どうぞ道中が無事に過ごせます
ように。」とお願いをしました。そして道中で食べようとしたおにぎりの一つを
お供えをして、旅に出ていきました。

ポン吉はお腹がグっとなるのをがまんをしていました。男の人の姿がみえなく
なるやいなや、元のタヌキの姿に戻り、「やあ これはおいしそうなおにぎりだ。
うまくいったぞ、うまくいったぞ。」
といってむしゃむしゃとおにぎりを食べてしまいました。
「こんなええことはない。いっぺんやったらやめられないな。」
「もうちょっとなんかくいてえな。早くだれかこないかな。」
そう言いながら、キョロキョロしていると、峠の下のほうから、おばあさんが
やってきます。ポン吉はまたお地蔵様にバケました。

おばあさんは杖をつき、「えいこらしょ。」と言いながら、
お地蔵様の傍までやってきました。
「ああ、やっとこさここまで登ってこれたわい。あとすこしじゃが、
のどがかわいた。お地蔵様のそばで、ミカンでも食べて一休みじゃ。」
こういいながらおばあさんは、お地蔵様の傍に腰をおろし、
懐からミカンを取り出しました。そうしておいしそうに食べ始めました。
ポン吉はそれを見ていて、喉がゴクゴクといい始めました。
ミカンを食べをわったおばあさんは、「よっこらっしょっと。」と言って立ち上がり、
「お地蔵様も一つ食べなさるかね。」「おひとつどうぞ。」
おばあさんは、ミカンをおいて、村の方に「えいこらしょ。」といいながら歩いて
いきました。

「やったやった。うまくいったぞ。」
ポン吉は大喜びです。甘くておいしそうなミカンをペロリとたべてしまいました。
「よおし、お腹がすいたらこうすればええんじゃ。」
おなかがいっぱいになったポン吉は、もちまえのいたづら心が出てきました。
「おなかも一杯になったし、よおし今度は人間どもをおどろかしてやろ。」
ポン吉はまたお地蔵様にバケました。そして知らぬ顔をしてたっていますと、
峠のしたのほうから男の人がやってきます。それを横目でみていますと、
その人はペコリと頭をさげて通り過ぎようとしました。
これではおどろかそうと待っていたかいがありません。
ポン吉は大きな声でその男の人に言いました。
「まてまてまてえ。」

おとこのひとは驚いて立ち止まりました。
あたりをキョロキョロみまわしていると、
お地蔵様が突然!
「なにかお供えをしろ!。」といったとみるや、それは大きな鬼になりました。
男の人は急にあらわれた鬼にびっくりして、「ひえ~~~~。」と村のほうに
逃げていきました。

ポン吉は元のタヌキに戻って思いっきり笑いました。
あまりの男の人の驚きようがおかしかったからです。
お腹をかかえてワハハと笑っていると、村のほうから誰やら又来ます。
「よおし!もう一度おどろかしてやろっと。」
ポン吉はまたお地蔵様にバケました。

やってきたのは和尚様でした。その後にはさっきの男の人がいました。
男の人は和尚様の背中から、お地蔵様のほうを指差していいました。
「和尚様。あのお地藏様は本当は鬼です。
もう少しで私は食べられるところでした。お願いです退治してください。」
そう言って男の人は村へ逃げ帰りました。

和尚様はお地蔵様の傍まできてじろじろと見回しました。
ポン吉はばれてしまうのが恐ろしくてじっとしていました。
和尚様はそのお地蔵様をみて一目でタヌキがバケていると見破りましたが、
少しばかり懲らしめてやろうと思い、
「どれどれ、ちょっとかわったお地蔵様じゃ。
本当のお地蔵様か調べることにしよう。」
「私がお経を唱えると本当のお地蔵様ならシッポが出てくるはずじゃ。」
そういって和尚様がお経を唱えるふりをすると、ポン吉はこれは大変と思い、
思わずシッポを出してしまったのです。

和尚様はしてやったりと思いましたが、さらにこう言いました。
「どうやら本当のお地蔵様のようじゃ。だが今一度確かめてみようかの。
本当のお地蔵様なら私がお経を唱えて、
{えっへん}と言うと{おっほん}というはずじゃ。」
ポン吉はここでバレたら一大事と思い、
和尚様がお経を唱えるのを必死で聞いていましたので、
ついついバケていることを忘れてしまいましたからタヌキにもどってしまいました。

「えっへん!」
和尚様はおおきな声でいいました。ポン吉はあわてて答えました。
「おっほん!」
ポン吉は和尚様と同じくらいの大きな声でいいました。
その拍子に頭の上にのせていた木の葉はヒラリと下に落ちました。

「ははは いたづらタヌキめ。」
和尚様は今度は本当にお経を唱えました。
すると、ポン吉の体はピクリとも動かなくなりました。
バレてしまって逃げようとするのですが、ぜんぜん体がいうことを聞きません。
「いたづらタヌキよ、お前は本当のお地蔵様になってしまったぞよ。
わははははどうじゃ動けまい。
お前が今まで悪さをしてきただけ、いい行いをしたら 解いてしんぜよう。
よいな、ははははは。」
和尚様はそう言って立ち去ってしまいました。

ポン吉は困ってしまいました。自分の体がぜんぜん動きません。
「ああ困った。どうしよう。このままでは 本当にお地蔵様にされてしまう。」
「それに このままだと人間にタヌキだとわかってしまう。和尚様はいい行いを
したら戻してくれるって言ったけど、どうすればええのかの。」
「ああ こんな悪さをしなければよかった。」
ポン吉は今までしてきたことを後悔しました。

こうしてポン吉は夜を迎えました。
松の木の枝の間からお月様が、顔を出しました。
ポン吉はお月様に向かって尋ねました。
「お月様おらどうすればええんじゃ?教えてくれ。」
でもお月様は何も言いません。ただ黙ってみているだけでした。

{うぇ~~ん、うぇ~~ん}

何処からか赤ん坊の泣き声が聞こえました。
その声はだんだんとこっちに近づいてきます。
村の方から一人のおばさんが、赤ん坊を背中におぶってこっちにやってきます。
「困ったねえ、ちっとも泣き止んでくれないね。おおよしよし。
お地蔵様どうかこの子が泣かないようにして下さい。」
おばさんはポン吉いえ、お地蔵様にこう言いました。
どうやら本当のお地蔵様にみえるみたいです。
ポン吉は少しは安心しました。
それに 余りにもその赤ん坊が可愛かったので、おもわずベロベロバーっと
大きな舌を出しました。

それをみた赤ん坊は大きな声で「キャッキャ。」と笑いました。
これにはおばさんもびっくり、
「あれ!この子が泣き止んだ。そればかりか笑い始めた。
お地蔵様さっそくおらのお願いをきいてくれてありがとうございました。」
おばさんは喜んで家のほうに帰っていきました。

ポン吉もなんだかホっとしました。
これを見ていたお月様が言いました。

{いいこと 一つ よかったね。}

つぎの日は、朝からくもっていました。
雲が次々と流れていきます。
ポン吉は動くに動けず、お地蔵様の姿のままでじっとしています。
「お~い雲よおらをたすけてくれ。」
でも雲はなにもいわず次々と流れていきます。
しばらくして、今度は黒い雲が流れてきたかとおもうと、
ピカピカピカゴロゴロゴロ!
カミナリが鳴りはじめました。そして雨がザア~っと降り始めました。
「こまったな ずぶぬれになってしまう。でも動けないし、困ったな。」
ポン吉は泣き出したくなりました。

そんな中を一人の男の人が通りかかりました。雨が降り出してずぶぬれです。
ゴホンゴホンとせきをしながら「こまったなあ。」と言いました。
ポン吉はかわいそうになって、「この笠をかぶっていきなさい。」
と言ってしまいました。
男の人はちょっとびっくりしましたが、
よく見るとお地蔵様の頭に笠があったのでそれを自分の頭にかぶり、
「お地蔵様ほんの少しお借りします。後で必ずお返しにあがります。」
そういって雨の中をかけぬけて行きました。

いつしか雨も通り過ぎていきました。先ほどの雲が言いました。

{いいこと 一つ よかったね}

雲が去り、いつしかお日様が出てきました。
ポン吉は少しばかり暖かくなりました。そう 体も心も・・・・
でもやっぱりお地蔵様のままです。
「お~い お日様よ~。」
ポン吉はお日様に向かって言いました。
「おら 早くもとの姿にもどりたいよ~。」
でも お日様はなにも言いません。

「きゃあ~~~っつ。」

峠の下のほうで叫び声が聞こえました。
ポン吉は何事かと思いそのほうを見ようとしましたが、
体が言うことをきいてくれません。仕方なくじっとしていると、
女の人が走ってきてポン吉の後に隠れました。
「お地蔵様、助けてください。犬が追いかけてきます。お願いです。」

ワンワンワン 
犬がポン吉の前まで来ました。
実はポン吉も犬は大嫌いです。逃げ出したいのですが、逃げれません。
{鬼になっておどろかせたらなあ}と思いました。すると!
ポン吉のいえ、お地蔵様の後からこわ~い鬼が現れて、
「ゴオオオオオオ・・・・・」
それを見た犬はびっくりして、キャンキャンと鳴いて逃げていってしまいました。

「お地蔵様、ありがとう、ありがとう。」
女の人はお地蔵様に何度も頭をさげ、村へと帰っていきました。

これを見ていたお日様が言いました。

{いいこと ひとつ よかったね}
{まもなく、まもなく いいこといっぱい}

暖かいお日様の光の中で、ポン吉はうとうと うたたねをしていました。
と、 なにやら村の方向から人間たちのこえが聞こえます。そしてそれは
だんだんこっちに近づいてきます。ポン吉はあわてました。
逃げようとしたのですが、お地蔵様にされていることに気が付きました。
「ああ もうだめじゃ。村の人たちがおらをやつけにくるんじゃ。
うえ~~~ん。もうだめじゃ お日様助けてくんろ。」
必死になってお日様にたのみましたが、お日様は知らんふり・・・・

村の人たちが次々とお地蔵様の前にやってきました。
「お地蔵様、夕べはほんとに有難うございました。
お陰で赤ん坊も泣かなくなりました。お地蔵様、これはほんのお礼です。」
それは 夕べ子供を背中におぶっていた あのおばさんでした。

「お地蔵様、先ほどは笠をありがとうございました。お返しに参りました。」
こう言ったのは、先ほどの男の人でした。男の人は、笠をポン吉の頭にしっかりと
かぶせて言いました。「これはほんの気持ちです。」

「お地蔵様、もう犬は来ないね。本当に危ないところありがとうございました。」
よく見ると、先ほど助けた女の人です。
村の人たちも「ありがたや、ありがたや。」と言いながら、お地蔵様の前に
お菓子やら、ミカンやらを一杯供えました。
そして、「これからもどうぞお助けください。」と言って村へ帰っていきました。

ポン吉はとっても幸せな気持ちでした。
今まで、人を驚かせていたときは、いつもビクビクしていましたが、今は違います。
ポン吉はこのままお地蔵様でもいいやと思っていました。
そこへ、隣村の法事の用が済んだ和尚様が戻ってきました。
「ほほう、タヌキよ お前は随分の良い行いをしたみたいじゃな。
ようし 元にもどしてあげよう。」

和尚様はお経を唱えました。
すると、今まで動くに動けなかった体がスっと動くようになりました。
「和尚様 ありがとう。 もうぜったい悪さをしないよ。」
「そうかそうか よくわかっただろう。 
いい事をすれば その分自分のところに戻ってくるんじゃな。
よしよし、そのお供えはお前のものじゃ それをもって山に帰るがよい。」
和尚様はニコニコ顔でポン吉に言いました。
「和尚様 ありがとう。 もうぜったいいたづらはしないよ。ありがとう。」
こう言って、ポン吉は山へ帰っていきました。

おしまい

③ぽんぽこやまのおはなし

ポンポコ山には3つのお話があります。ポンポコ島物語とは別のおはなしとなります。

私が最初に書き始めたのは創造物語で、美濃加茂市近郊の題材を元に物語を書きましたが、特にこのタヌキを使っての題材を気に入って色々イメージを膨らましています。「ポンポコ」の4文字を変化させると、ポンポコ・ポポコン・ポコポンなどなど色々に使えます。ただ、自分でもどれがどれだかわからなくなる時もあります。それが又楽しくて思考を膨らませています。<<ポンポコ島>>にはまだいろいろありますので、順次こちらに移し替えてきます。工房音絵夢ingの公式サイトは

http://ne-ming.com/     です。